そもそも舌癒着症とは
舌癒着症とは、通常ならば離れているべき(くっついていてはいけない)ポイントで、舌とその他の粘膜が癒着(ユチャク)している状態の病変を指します。舌の下面には、舌小帯という薄いひだ状の構造がありますが、舌癒着症は、先天的に舌のつけ根が前に位置するので、舌の後ろにある喉頭蓋・喉頭が前上方に引っ張られ曲がっています。舌癒着症の正式な名称は、
(先天性)舌癒着・喉頭蓋・喉頭偏位症
といいます。今回の記事で注目する「舌癒着症」は、この『(先天性)舌癒着・喉頭蓋・喉頭偏位症』という大きな括りの中に含まれた一つの症状と解釈してください。とても長い病名ですから、ここからは広く使われている「舌癒着症」という名称でその病態や原因などについてご説明してゆきます。
<舌癒着症の特徴>
舌癒着症は、舌と下顎への”付き方”の不具合によって様々な病態(正常とは言えない状態)を生じます。舌癒着症では、舌の付着部位が正常よりも前方向に寄っています。つまり、舌全体が普通よりも前に偏っているわけです。
<舌小帯短縮症は同じ病気・症状?>
「舌小帯短縮症」という呼び方をされる病変が存在しますが、この病変も先に述べた『(先天性)舌癒着・喉頭蓋・喉頭偏位症』の中に含まれます。舌小帯短縮症では、舌の付け根にある「舌小帯」とよばれる粘膜のヒダが短く、舌の可動性が制限されてしまう症状が現れます。舌小帯短縮症は、舌癒着症の一部であるという捉え方ができますが、舌癒着症であっても、舌小帯短縮症を必ず伴っているとは言えません。
舌癒着症の原因について
母体の中で体を形成されている時、口腔内の舌と粘膜が分離不全を起こすことが原因と言われており、先天的な病気であるとされています。しかし親からの遺伝が起因するものなのか等、はっきりとしたことは未だにわかっていないのが現状です。
後天的なものとしては、舌に何らかの外傷が与えられたり、手術によって癒着を起こすことがあります。
舌癒着症の症状について
先天的な疾患であるため、新生児や乳児の授乳期に症状が強く出ます。
- 舌を突き出そうとすると、ハート型のように真ん中がへこむ
- 手足が冷たい
- 唇が青紫色っぽくなる
- 舌の一部が白く、ザラザラしている
- 反り返って寝る
- 目が合わない
- 生後すぐに指しゃぶりをする
- 泣き声が弱い
- お腹が膨らんでいる
などが挙げられます。
舌癒着症の影響について
舌癒着症は、「舌全体が普通よりも前に偏っている状態」を示す病症ですが、口の中はとても狭い空間ですから、舌の位置が異なることで様々な影響が生じます。
呼吸に関する症状
舌癒着症の最も重要な症状は、「呼吸」に関する症状です。舌というものは、その付け根で「喉頭」という気管の入り口部分と繋がっております。舌全体が前方に偏位(位置が偏る)することで、その奥の喉頭の位置も変化することになります。気道というのは、すなわち、空気の通り道。「喉頭」は、その通り道の入り口部分でありますので、その部位から正常からズレることで、呼吸がしにくくなってしまったり、睡眠時の無意識下での呼吸が浅くなってしまう症状が生じます。
授乳障害
舌癒着症の最も重要な弊害は、先に述べた「呼吸障害」ですが、その他の症状としては「授乳障害」が挙げられます。「授乳」とは「おっぱいを飲む」ということです。正常な飲み方が、舌を前に突き出して乳首を包みこみ、乳輪部を咬むことで反射を起こさせ、口腔内にあふれ出てきた乳を咀嚼して飲むのに対し、舌癒着症の赤ちゃんは、舌全体が前についているため、舌を前に出そうとすると鼻と咽頭がずれてしまい、息ができなくなってしまいます。呼吸が苦しくて母乳が飲みづらくなります。
舌癒着症と赤ちゃんの発育の関係について
カラダに与える影響について
舌小帯癒着症は、「呼吸障害」や「授乳障害」を伴いますので、その存在で赤ちゃんの発育に影響を与えることが知られています。
- 呼吸障害による寝不足と、発達の遅れ
舌癒着症から生じる「呼吸障害」によって幼少期の生活リズムに乱れが生じることは、その後の発達に少なからず影響を与えます。呼吸のしづらさによって、浅い睡眠が続いてしまうと、ただでさえエネルギー消費の激しい乳児〜幼児にとっては、大きな負担がかかってしまいます。深い眠りを取れないことは、大人にとってもとても辛いものです。夜間の浅い眠りによって、夜に何度も目を覚ましてしまったり、昼間に眠気がおそってきたりと、子どもの生活に大きな影響が生じてしまいます。
- 落ち着きがなかったり、怒りっぽい性格
直接的な関係性はまだはっきりと分かっておりませんが、舌癒着症を生まれ持ったお子さんには、落ち着きがない性格であったり、怒りっぽい性格などが見られ易いとも言われています。
- 発音がしにくい
また、舌癒着症は「発音の発達」にも大きな影響を与えることが知られています。舌の位置が偏っている舌癒着症では、程度の差はあれど少なからず「発音のしにくさ。話しづらさ。」を伴います。これが顕著に見られた場合、舌癒着症を生まれ持った子どもに「言葉の遅れ」が確認されるケースが存在します。
治療はすべきか
手術の目的は、呼吸を改善することになります。手術後には、「哺乳がよくなった」「よく眠るようになった」などのメリットがあります。その一方で、小さいときにメスを入れることの抵抗や、そもそも絶対に手術をしなければいけない状況ではないので、否定的な意見もあります。一般的には、小児科医は反対している方が多いですが、逆に助産師の方は手術をしたほうが良いと話していることが多いようです。ほとんどの人が程度こそ違えど舌癒着症であるともいわれていますが、手術の適否は、その子によってかなりの個人差があります。手術は全員が受けなければいけない状況ではありません。手術を受けなくても、成長に影響があまりないかもしれません。あくまで、その子の症状に対して手術が、一つの選択肢であると捉えることが大事です。呼吸の症状が強いと感じた時は、近隣の医師に相談してみるというのが良いでしょう。
舌癒着症の治療法について
何科を受診するべきか
舌癒着症は先天的に発症するものですので、小児科もしくは小児歯科と口腔外科が連携を取りながら進めてゆくことが理想的です。
手術・治療内容について
治療は外科手術によって行われます。
- 舌の付け根の部分を局所麻酔にかける
- レーザーを用いて切り開く
- その奥にある、おとがい舌筋という筋肉のヒキツレを切開する
以上の過程を経て、喉の位置は正しくなります。その結果、呼吸が楽になり、様々な上記に記載したような症状が改善されます。乳児の哺乳改善率は80%以上、小児や成人のいびき、睡眠時無呼吸症候群も70~80%改善すると言われています。
<保険は適用されるか>
舌小帯短縮症は、舌小帯が短い病気で厚生労働省の認めている手術なので、保険診療の適用となります。しかし舌癒着症の場合は、耳鼻科咽頭医が作ったとされる病名なので、厚生労働省が認めていません。したがって、保険診療の適応外なので注意が必要です。
どれくらいで治るのか
舌癒着症の治療は、何も手術を行なったからといって全てが解決される訳ではありません。比較的若い年齢で手術を施すケースがほとんどであるため、手術以降の定期的な予後観察も重要な治療内容に含まれます。手術によって舌の部位を変化させた後で、発音の”し易さ”に変化が生まれているか?発音し易くなったのであれば、これからの発音指導をどう行なってゆくのか?等々、手術以降、その手術によって患者様のその後の生活が豊かなものになるように、しっかりと術後のフォローが必要となってきます。
舌癒着症について まとめ
最後に舌癒着症について重要な点をおさらいしておきましょう。
舌癒着症が赤ちゃんに与える影響
- 呼吸障害による寝不足と、発達の遅れ
- 発音がしにくい
- 落ち着きがなかったり、怒りっぽい性格
舌癒着症の代表的な9つの症状
- 舌を突き出そうとすると、ハート型のように真ん中がへこむ
- 手足が冷たい
- 唇が青紫色っぽくなる
- 舌の一部が白く、ザラザラしている
- 反り返って寝る
- 目が合わない
- 生後すぐに指しゃぶりをする
- 泣き声が弱い
- お腹が膨らんでいる
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