エムドゲインって何??
歯周病にかかると進行するにつれ、骨が溶けてなくなっていきます。かつては歯を支えている骨は溶けてしまうと元に戻らない、とされていましたが、近年歯科医療の発達により、失われた骨を再生させる治療法が開発されてきています。今回はこの中の一つ、エムドゲイン再生療法について解説していきます。
そもそも骨を再生するってどういこと?
歯周病治療の方式について
歯周病とは歯周病細菌によって引き起こされる感染症であり、細菌が歯と歯茎の境目にある溝から侵入して、周囲の組織を破壊してやがては歯を支えている骨を溶かしてしまいます。現在行われているメインの歯周病の治療というのは昔からさほど変わっておらず、歯周病によって深くなった歯周ポケットに入り込んだ細菌を取り除くことによって、歯周組織の健康を取り戻す、というような方式です。
つまり、現在の歯周病治療というのは、歯周病を引き起こす原因となる細菌の塊である歯垢(プラーク)をとにかく取り除くことで、歯周組織の炎症を起こさないようにし、あくまでも「これ以上悪化させない」「進行を食い止める」ことが主体であり、決して元のように健康な状態に「治している」わけではありません。
従来の歯周病治療の問題点
この方法では、歯肉の炎症は取れても、歯を支えている歯根膜や歯槽骨は失われたままです。そのため、歯周病が進行してくると、深い歯周ポケットが残ったままで、またいずれポケットの中に細菌が溜まってしまい、歯周病が再発して悪化してしまいます。このようにトラブルを引き起こす歯周ポケットは歯周外科手術によって浅くすることはできるのですが、この場合、歯茎が大幅に下がって、歯が長く見えてしまったり、知覚過敏に悩まされるという問題が出てきます。
エムドゲインで可能になった骨の再生とはどういうもの?
従来の治療だと、屍肉ばかりが再生してしまう
従来の歯周病治療で「なぜ失われた歯周組織がきちんと再生しないのか?」という理由として、歯肉の治るスピードが他の組織よりも速いことが挙げられます。骨は治るスピードが非常に遅いに対し、歯肉は治るスピードがとても速いのです。そのため、歯石やプラークを取り除いた後の空洞や、歯槽骨、歯根膜などの失われた部分には、歯肉の細胞が再生してどんどん入り込んでしまい、歯根膜や歯槽骨が再生できるスペースがなくなってしまうのです。
エムドゲインにより、骨の再生スピードが上がる
エムドゲイン再生療法は、エムドゲインゲルという商品名の薬剤(一般名はエナメルマトリックスデリバティブ)を、骨がなくなってむき出しになっている歯根の表面に塗るだけで、骨が再生されるという治療法です。このエムドゲインゲルは歯が形成される際に分泌されるたんぱく質を主成分としています。そのため、歯周病によって骨が溶けてなくなってしまった部分にエムドゲインゲルを塗ることで、歯が発生する時の環境を再現し、歯根膜や歯槽骨などを作る細胞を呼び込んで、歯周組織の再生を促します。この働きにより、骨の再生のスピードが速くなって、歯肉が入り込んでくる前に骨を再生することができるのです。
エムドゲインの適応症は?
このように骨を再生することができるエムドゲイン再生療法ですが、残念ながらすべてのケースで効果的なのではありません。骨のなくなり方によって、効果的な場合とそうでない場合とがあります。そのため、効果的でないと考えられるケースではエムドゲイン再生療法は行えません、と言うか行っても効果がありません。
エムドゲイン再生療法の適応症とは、
- 歯の周囲の歯槽骨が一部だけ欠損してしまっているケース
です。このような状態を垂直性骨欠損といいます。全周にわたって一様に骨が下がってしまっている水平性骨欠損の場合にはやっても効果がありません。つまり、重度で歯がグラグラになっているような歯周病の場合には残念ながら効果がありません。
エムドゲインの手術方法は?
エムドゲインの手術方法は次の手順で行われます。
- 歯茎に注射の麻酔をする
- 治療を行う部位の歯茎を切開して剥離する
- 歯根表面についた歯石や汚れを徹底的に除去する
- エムドゲインゲルを歯根表面に塗る
- 歯茎を元の位置に戻し、縫合する。
このように歯茎を開いて、きれいな歯根面に薬剤を塗るだけ、という単純なステップで行われます。手術には約1時間くらいを要し、縫合時の糸は2週間~6週間くらいたってから取り外します。だいたい6週間(1ヶ月半)で骨の再生が見られる、という治療効果が比較的早く現れてくる治療法です。また、術後の痛みや腫れなどが少ないことも大きなメリットです。
エムドゲインの手術価格・費用は?
エムドゲインは厚生労働省の認可が下りている薬品ではありますが、まだ保険診療には組み込まれておらず、自由診療となります。そのため、医院やそれぞれの症例によって治療費は異なってきますが、
だいたいの相場では1ブロック(※)5万円~15万円ほどです。
(※)1ブロックとはすべての歯を6ブロック(右上奥歯、上前歯、左上奥歯、左下奥歯、下前歯、右下奥歯)に分けたうちの1つのブロックのことです。
治療費はこのように決して安くはありませんが、治療費が高額になった場合は確定申告で医療費控除を受けることができますので、領収証などは大事に保管しておきましょう。
エムドゲインの効果がある人と、ない人がいる?
エムドゲインの効果が出やすいかどうかというのは、
- 骨のなくなり方がエムドゲイン再生療法の適応症であるか
- 手術後の注意事項をきちんと守ったか
- 歯周病のコントロールができているか
ということなどで決まってくると言えるでしょう。
骨のなくなり方がエムドゲイン再生療法の適応症であるか?
先ほど触れたように、歯の周囲の歯槽骨が一部だけ、垂直的に溶けてしまっているケース、かつ、中程度くらいまでの歯周病であれば、エムドゲイン再生療法の効果は出やすいと言えます。
しかし、歯の周囲の骨がほとんどなくなっていたり、水平的な骨の吸収を起こしているようなケースでは効果が出にくく、まず適応症から外れてしまいます
手術後の注意事項をきちんと守ったか?
手術後は治療部位の状態に特に注意を払う必要があります。歯茎を縫い付けた糸を取るまでの間、つまり傷口が治るまでというのは細心の注意を払わなければ失敗に終わってしまいます。ジェル状のものを歯茎の内側に入れて縫い付けているだけですから、なるべくその部分をそっとしておくことが大事です。また、歯科医院での手術後の検査、清掃をしっかりと受けること、喫煙しないこと、傷口付近を歯ブラシやフロスで磨かないこと、など、手術後の注意事項をきちんと守ったかどうかも治療の成功を決める大きなカギとなります。
歯周病のコントロールができているか?
これは術後に自分できちんとお口の衛生状態を保つことができるか、そして歯科医院での定期的なクリーニングをきちんと受けるか、ということです。つまり、手術をやりっぱなしで放置、ではうまくいかない、ということです。
エムドゲインについて まとめ
エムドゲイン再生療法においては、骨ができ始めるのは1ヶ月半くらいからとされていますが、最終的に健康的な歯周組織を取り戻すのには最長1年くらいの年月がかかります。健康な歯周組織を再生させるためには、口の中を清潔に保ち続け、歯周病菌の感染を起こさないようにしなければなりません。
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