歯のクリーニングは必須事項?
近年口腔疾患の予防の大切さは歯科だけに留まらず医科でも推奨されるようになりました。歯科では以前から虫歯や歯周病の予防に取り組んできましたが、なかなか浸透せず苦戦してきました。歯医者さんで指導される歯磨きのやり方も、頭ではわかっていてもつい日常に流されて漫然とやってしまう人は多いものです。その蓄積から、いつの間にか国民の大多数が虫歯や歯周病に罹っているという状態が長きにわたって続いていました。
近年になって歯科では治療だけでなく予防の考え方が進歩し、予防に特化したさまざまな処置も導入されるようになりました。そしてようやくその努力が実を結び始め、徐々に予防に努める人が増えてきました。ただ、全体の数字としてはまだ虫歯や歯周病の罹患率が著しく減少するには至っていません。
こういった状況を踏まえ、現在予防に有効な方法のひとつとして歯のクリーニングが推奨されています。
では、なぜクリーニングが必須と言われるのか、その理由を解説しましょう。
第一章:歯のクリーニング?
以前は歯のクリーニングという概念はあまり浸透していませんでしたが、今ではごく当たり前に耳にする言葉になりました。そこで、歯のクリーニングについて具体的に説明します。
・歯のクリーニングとは?
歯のクリーニングとは、歯のついた歯垢や歯石、着色などを専用の器具や器材を使って取り除くことをいいます。自分で行うクリーニング法と歯科医院で歯科衛生士が行うクリーニング法があり、いずれも虫歯や歯周病の予防にとても効果的とされています。中でも歯科衛生士が機械を使ったクリーニングのことをPMTC(=Professional mechanical teeth cleaning)といいます。
・どんなことをする?
歯のクリーニングは、主に歯の表面に付着した歯垢や歯石、ステイン(ヤニや着色、黄ばみなど)の除去を行います。その方法としては、歯科衛生士が専用の手用や超音波のスケーラーと呼ばれる機器を使って歯石や歯垢を取り除く方法、エアフローという機械で微粒子の粉を水と同時に吹きつけて汚れを吹き飛ばす方法、ゴムのシリコンカップでポリシングクリームなどで研磨し表面をつるつるに磨き上げる方法などがあります。届きにくい部位はデンタルフロスなど専用の道具を使って隅々まできれいにします。
クリーニングは、保険でできるものと自費で行うものがありますので自分の状態に合わせて治療計画を立てるのが望ましいです。
第二章:そもそもなぜ、歯のクリーニングが必要なのか
それでは歯のクリーニングが大切である理由について説明しましょう。
・歯垢、歯石とは
虫歯や歯周病の元凶ともいわれる歯垢や歯石の基礎知識を紹介します。
歯垢:簡単にいうと細菌の集合体です。黄色みがかった白い粘着性の物質で、主に歯茎の境目や歯の隣接する部分、溝などの窪みに多く付着しています。針の先程度の歯垢中に1~2億個の細菌がいるとされ、その種類も数百種類とされています。歯垢の表面は非常に強固なバイオフィルムと呼ばれる膜で覆われていて、殺菌剤や消毒剤などの薬品の力を簡単に通さないこともわかっています。粘着性が強いためうがい程度では取り除くことはできず歯ブラシなどでしっかり取り除く必要があります。
歯石:歯石は唾液中のカルシウムが沈着する石灰化によって、石のようにこびりついた黄色や灰色、あるいは黒っぽい色の付着物です。顕微鏡で見ると穴ぼこだらけで細菌の格好の住み家になり、歯ブラシでは取り除くことができません。
・除去するのはなぜ?
歯垢や歯石はさまざまな細菌の集合体です。その中には虫歯や歯周病の原因となる菌やカビの一種もいることがわかっています。これらの細菌は時間と共に増殖し広がっていきます。それと同時に歯を溶かす酸や炎症を起こす物質を産生するため歯を脱灰し歯肉の炎症を引き起こします。
・放置するとどうなる?
歯垢や歯石を放置すると、細菌がどんどん増殖して拡大していきます。特に歯や歯肉の奥に侵入すると、深刻な虫歯や歯周病を引き起こしますし、最近では全身にその悪影響が及び健康を害することもわかっています。一度浸食されると元の健康な状態に戻すことは不可能です。
第三章:歯周病の恐怖
歯周病は痛みがなく気づきにくいことから40代以上の約8割が感染していると言われるほど罹患率が高い細菌感染症です。
・歯周病になると何が厄介?
歯周病は歯の周囲にある歯肉や骨などに炎症を起こして支える力が弱まり、歯がぐらぐらして最終的に抜け落ちてしまいます。痛みがないままに進行するため、何らかの症状に気付いた時にはかなり進行していることも少なくありません。治療の目標は進行を食い止めるか遅らせることで完治は困難です。治療後も適切な治療とメンテナンスを継続しなければ再発しやすいのも特徴のひとつです。以前は老化現象と考えられていたこともあり、歯周病予防の重要性の認知が急務とされています。
・全身と歯周病の関係
歯周病は、歯磨きを怠ったことだけが原因ではありません。歯周病のリスクを高める主なものとして「喫煙」「不規則な生活習慣」「食習慣」「ストレス」「ホルモンの影響」「家族的な要因」「肥満」「薬剤の影響」などが多岐にわたっています。
・病と歯周病の関係
近年歯周病は、生活習慣病をはじめさまざまな全身的な病気と関係していることがわかってきました。中でも、糖尿病や心臓・脳血管疾患などの重篤な病気の要因ともされています。歯周病の細菌は出血した歯肉から血管に逆流して十数秒で全身を巡り、その後血栓を形成する原因となることがわかっています。さらに糖尿病患者の多くが重い歯周病に罹っていることから、歯周病と並行して治療が行われるようになりました。その他細菌が気管に侵入して起こる誤嚥性肺炎や早産や低体重児の出産リスクが高まることも明らかになっています。
第四章:クリーニングで予防しよう
予防に効果的なクリーニングの方法について説明しましょう。
・自宅でのクリーニング
自宅で手軽に行えるのが『歯磨き』です。歯磨きの仕方には個人差があり自分に合ったものを使って適切な方法で行う必要があります。使うものには、歯ブラシ・デンタルフロス・歯間ブラシやタフトブラシ、歯磨き剤などがありますが、定期的にプロの歯科衛生士によるチェックと適切なアドバイス及び歯科医院でのクリーニングと並行して行うことが大切です。
・歯科医院でのクリーニング
歯科医院では保険適用によるクリーニングや自費によるクリーニングなどさまざまな方法が用意されています。それぞれの口の中の状態と希望に合わせた方法で、半年に1回は定期的なクリーニングを受けることが大切です。
・予防歯科の大切さ
一般的に予防は保険が適用されません。ただ、早期発見早期治療が虫歯や歯周病予防のポイントですし、治療をするよりも予防を徹底する方が費用も少なくすむことは明らかです。また、虫歯や歯周病を予防することで、全身的な病気や不調の予防に繋がることからその重要性が注目されています。
まとめ
歯のクリーニングはこれまであまり馴染みのない処置でした。しかし全身の入口である口の健康が全身の健康の入口でもあることから、予防としてもクリーニングの意義は大きいといえます。生活のQOLを高めるためにも、歯のクリーニングから始まる健康づくりを目指して定期的なメンテナンスを習慣づけることをおすすめします。