今回は「根管治療」についてクローズアップしていきます。根管治療は患者さん自身ではほとんど何をされているかわからない治療です。しかし、保険と自費では治療内容に非常に大きな差があるのは大半の方に伝えられていない事実です。
誰もがやったことがあるのに、何も知らない根管治療
根管治療とは、歯の神経の手術のことです。根管治療には2種類あります。
抜髄(ばつずい)
虫歯が歯の神経まで達している場合に行われる処置で、歯の神経を取り除く治療です。
除去された歯髄の一部 小森歯科
感染根管治療
何かの原因で歯根の先端に根尖病巣と言われる膿の袋ができてしまった場合や、根管内に根管充填材がきちんと入っていない場合などに、行われます。
どちらも、数回かけて根管内を洗浄、殺菌し、きれいになった根管内に根管充填材と呼ばれる材料を充填します。根管充填後に、コア(=被せ物の土台となる部分)を作り、被せ物をします。
健康保険で行う根管治療
健康保険で行う根管治療は、一般的には、リーマー、ファイルなどと呼ばれる針のような器具を使って根管内の汚染物を掻きだしていきます。合わせて、過酸化水素水(オキシドール)と次亜塩素酸ナトリウムで根管内を洗浄し、きれいにしていきます。必要に応じて、根管内に専用の薬剤を塗布し、根管内の殺菌を行っていきます。(↓)
根管内の殺菌が完了すると、ガッタパーチャポイントと言う専用の充填材を根管に入れていきます。ガッタパーチャポイントは、太さが何種類かあり、根管の太さに合わせてサイズを選びます。しかし既製のサイズで、まっすぐなので、根管内の複雑な形態や、細かいサイズには対応できないため、その隙間はシーラーと言うセメントと、細いガッタパーチャポイントを挿入することで隙間を埋めていきます。
自費(保険外治療)の根管治療
自費の根管治療は、医院によって内容が大きく異なりますが、治療内容としては、根管内の清掃、無菌化→根管充填と、保険で行われる治療とほとんど同じです。しかし使用される器具、機材に大きな違いがあります。自費の根管治療で使用されることのある器具、機材をご紹介します。
マイクロスコープ
歯科用顕微鏡とも呼ばれるもので、口腔内を4~最大30倍程度にまで拡大してみることができます。マイクロスコープでは、歯科医師が見ている画像を撮影し、患者さんにも診てもらうこともできるため、患者さん自身が根管内の様子を見ることもできます。マイクロスコープを使用した根管治療では、肉眼では確認することのできなかった根管内に入った小さな亀裂や問題を発見することができます。マイクロすポープは、アメリカの根管治療専門医では導入が義務とされていますが、日本ではマイクロスコープを保有している歯科医院は全体のわずか5%程度と言われています。
初期導入コストが非常にかかるので、導入している歯科医院は5%以下
ニッケルチタンファイル
根管内の汚染物を清掃するためのリーマー、ファイルの役割をするもので、その材質がニッケルチタンを主原料としています。ニッケルチタンファイルは、一般的なファイルと違い、金属でありながら弾性を持っているので、根管内の複雑な形状に沿って、隅々まで根管内を清掃することができます。
また、根管に沿って曲がるため、不必要に根管内を傷つけたり、根管に穴をあけてしまうと言ったトラブルを防ぐことができます。こちらも、アメリカの根管治療専門医では使用率がほぼ100%ですが、ニッケルチタンファイルが高価なため、日本では20%の歯科院でしか利用されていないと言うデータがあります。
金属であり、弾力性があるため隅々まで届く
レーザー
根管内に直接レーザー照射を行い、根管内を殺菌する治療法です。薬剤による殺菌よりも確実で、即効性があると言われています。
CT
レントゲン画像だけでは、根管内の複雑な形態を正確に把握することはできません。CT画像で根管内を立体的に把握することにより、複雑な根管内の状況を正確に把握できます。
フィル(ウルトラフィル、ゼネシスフィルなど(商品名))
根管充填に使用されるものです。根管充填は、健康保険では、既製のガッタパーチャポイント、アクセサリーポイント、シーラーを使っての側方加圧充填と言う方法で行われます。これは、保険の根管治療でも説明したとおり、シーラーとアクセサリーポイント(細いガッタパーチャポイント)で根管内の隙間を埋めていく方法です。それと比較し、フィルでは、垂直加圧充填(バーチカル充填)と言う方法での根管充填ができます。
フィルは、ガッタパーチャポイントを軟化させたものを根管内に挿入します。それを上から垂直的に加圧して、隙間なくガッタパーチャを根管内に行きわたらせます。フィルを用いた垂直加圧充填では、シーラーを使わないため、シーラーの劣化による隙間が生まれない。側枝(メインの根管から枝のように伸びた細い根管)にまで充填材を挿入することができるなどのメリットがあります。隙間なく根管充填材を根管内に充填することは、根管内で細菌を繁殖させないためにも非常に重要なポイントです。
ラバーダム防湿
ラバーダムと言うゴム製のシートを歯の周りにかけて、根管内に唾液が侵入するのを防ぎます。唾液が根管内に入ると、唾液内の雑菌が根管内を汚染してしまいます。
唾液の侵入を防ぐラバーダムも導入率は低い。松本歯科
健康保険の感染根管治療は再発率が高い?
健康保険で行われる根管治療では、感染根管治療を行った場合の再発率が5年以内で40%、最終的には70%以上が根尖病巣(根の先端に膿がたまる症状)を再発すると言われています。
一方、自費で行われた感染根管治療では、再発率は10~20%にまで抑制されると言われています。
なぜ、健康保険で行われる根管治療では、再発率がこんなにも高くなってしまうのでしょうか?
原因として考えられるのは以下のようなポイントです。
・根管内の無菌化が不十分であること
・治療時に根管内を傷つけてしまっている可能性があること
・複雑根管の形態を把握できていないこと
・根管充填時に隙間ができてしまっている可能性が高いこと
・根管内の重大な問題を見落としている可能性があること
健康保険で行われる根管治療の問題点はこのようなものになります。そして、上記のような問題点は、自費治療で用いられるマイクロスコープ、ニッケルチタンファイル、などの器具、機材を用いることで解消できることがほとんどです。
では、なぜ健康保険の治療ではそれらの器具を使ってもらえないのでしょう?
それは日本の健康保険制度に問題があります。日本の健康保険制度での根管治療に対する診療報酬は非常に低く設定されています。他国と比べると、フィリピンの約1/7、アメリカの1/20ともいわれています。そのような予算の中で、自費では自費で使用する器具、機材を用いることは非常に困難です。(ちなみにマイクロスコープは1台500万円~、レーザーは100万円~などと自費で使用される器具はどれも高額です)
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抜歯と言われた歯も残せる可能性が!最新の根管治療
健康保険の根管治療と自費の根管治療の違いについてはお分かりいただけましたか?このように、健康保険と自費では根管治療の内容、精度に大きく差があります。実際に、健康保険の根管治療では保存が不可能=抜歯と診断された歯でも、自費の根管治療を行うことで抜歯を回避できる可能性があるのです。
例えば…
原因不明の根尖病巣。何度健康保険の根管治療を繰り返しても良くならず、再発を繰り返しており、次に痛みが出たときには抜歯しか選択肢がないと言われていたような場合でも、マイクロスコープやCTをり薄ことで、原因不明であった根尖病巣の原因を突き止められる可能性があります。目では見えない小さなひびや、根管内の複雑な形態による根管充填の不備などが発見され、自費の根管治療でこのような問題点に直接アプローチすることによって歯を残せる可能性が出てきます。
マイクロスコープでよーくみると、わずかなヒビが入っていることも。歯科治療を真剣に考えるブログ
また、ひびが入っていたり、根管壁が薄くなっている場合にも、ニッケルチタンファイルで丁寧に根管内を清掃し、MTAセメントという特殊なセメントで根管充填を行うことにより、歯の延命ができる可能性があります。(MTAセメントは、日本では直接覆髄法という治療でしか認可が出ていませんが、アメリカや欧米では根管治療にも応用されています。しかし、価格が高いので日本の歯科医院では取り扱っている医院は非常に少ないのが現状です。)
MTAセメントなど保険は効かないが歯を守る方法が多くあるのが現状。歯周病TIPS
根管治療は保険or自費?総まとめ
ここまでご説明させていただきましたが、日本の根管治療は、健康保険制度の問題などから、健康保険では十分な治療を受けることが難しい状況です。しかし自費治療は費用が…と思われる方も多いでしょう。ですが、根管治療、特に健康保険での根管治療は繰り返せば繰り返すほど、歯の寿命を縮めてしまいます。
一般的に、根管治療の再治療を行える回数は3回程度までと言われているため、すでに2回以上根管治療をやり直している歯では、次の再発が最後の根管治療、その後に再発した場合は抜歯になる可能性が高いと考えていただいた方が良いでしょう。そのため、3回目再発時の根管治療は失敗が許されない、非常にシビアな状況なのです。そんな中、健康保険の根管治療の再発率は70%、自費治療では10~20%というデータがあります。
健康保険の治療は、最低限の機能回復治療です。ご自身の歯を長く、良い状態で使うためにも、根管治療を受ける際には、ぜひ、自費での治療も視野にご検討されてみてはいかがでしょうか。
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