口の中に癌ができる前の状態「扁平苔癬(へんぺいたいせん)」
口の中の癌は様々な部分にできます。そのため口の中に異変が起こった場合、癌や、癌に関連する病気である可能性も否定できません。たとえば、長く続く口内炎は日常的に起こる病気ですが、なかなか治らない場合は初期の癌である可能性があります。このように口の中の異変は深刻な事態に発展する可能性があります。しかし、
癌になる危険性が高い場所は事前に見つけられる
こともあるのです。本記事では癌になる危険性が高い場所を示す病気である、扁平苔癬について解説させて頂きます。なお、今回は口の中にできる扁平苔癬に限って紹介させて頂きます。
そもそも扁平苔癬って何?
聞き慣れない病気かと思いますので、最初に扁平苔癬とは一体何が起こっている病気なのかご説明させて頂きます。ここでは分かりやすく扁平苔癬とかかとを比べてみましょう。かかとが硬くなって軽石で削った事がある方は多いかと思います。削っていくと硬い皮膚の表面は次第に軟らかくなり、他の場所の体の皮膚と同じようになると思います。この原因は、かかとの本来の皮膚の上に硬い層ができて、分厚くなってしまったという事です。扁平苔癬もこれと似ています。口の中の表面が、ある部分だけ分厚くなって起こります。しかし扁平苔癬にはかかととは違う特徴があります。それは分厚くなった表面の下に、身体に入った敵をやっつける身体の成分が集まっていることです。
口の中の表面が分厚くなり、その下で免疫成分が集まっている状態
つまり扁平苔癬は、口の中の表面の一部が分厚くなり、その下では身体が敵をやっつけようとしている病気です。この病気は癌になる危険性が高く、癌になりやすい状態である「前癌状態(ぜんがんじょうたい)」と呼ばれています。特に40歳~50歳代の女性にできやすいため、該当する方は注意が必要です。
扁平苔癬の症状
白い線が現れる
扁平苔癬になると白い線ができることがあり、それがレースのカーテンのように口の中に広がっている場合や、網のように広がっている場合があります。しかしこのように線の形をとるものだけでなく、ただ白い部分ができる場合もあります。これらの症状に加えて、白い部分の内側や周り、あるいはその両方に赤い部分が現れることも少なくありません。
痛む
痛みが最も気が付きやすいサインだと思いますが、白い部分が多い扁平苔癬は痛みがないことが多いです。しかしただれているというような場合はしみるといった症状があります。特に扁平苔癬になりやすいのは口の中の頬の部分で、両側にできることが多いです。
似たような症状を有する病気
口の表面に異常があり、それが癌につながるのは扁平苔癬の場合だけではありません。その他にも癌の前段階で、その病気から癌へと発展していくことがあります。こういった病気の代表は「白板症(はくばんしょう)」と「紅板症(こうばんしょう)」です。この二つの病気は「前癌病変(ぜんがんびょうへん)」と呼ばれ、字面から察する方も多いかと思いますが、癌の手前の状態といえる病気です。
白板症(はくばんしょう)
白板症は扁平苔癬と共通する部分があります。口の中の表面が分厚くなることで、口の中の一部が白く見えるという病気です。扁平苔癬のようにレースのように見えたり網目のように見えたりはせず、大小は様々ですが白く広がっているように見えます。しかしながら見た目は似ていて、目で見て区別することは難しいと思います。違いを挙げますと、白板症は分厚くなった表面の下で身体が敵をやっつけようとしていることはありません。
<原因>
喫煙、刺激、ビタミンAが足りていないなどがあると言われていますが、基本的には不明です。白板症はそれを見分けるために、麻酔をかけて一部を切り取って顕微鏡で観察します。何を観察するかと言いますと、まず扁平苔癬かどうかを区別します。治療法が違うからです。そして上記の通り白板症は癌に発展する病気ですので、初期の癌でないかを区別します。そして癌になりそうな兆しがあるかも見極めます。
<治療>
原因をできる限り取り除くことです。つまり刺激を無くすことが最初の治療になります。具体的には喫煙者などに対しては禁煙をすすめ、あるいは喫煙量を減らすことをすすめます。そういった刺激となるものを取り除いても白板症が消えない場合は、切り取ることも視野に入れて治療や様子を観察することを続けていきます。つまり最終的に治らないようであれば切り取るということです。
紅板症
紅板症はその名の通り口の中に紅色の部分ができます。口の中のほとんどの部分にできる病気で、形は不規則ですが他の紅色でない部分との境目ははっきりとしています。60歳~70歳代に多い病気です。紅板症には初期の癌や癌になりそうな状態も含まれるため、ある程度の大きさまでは周りを含めて取り除きます。さらに同じ理由で、紅板症が進んでいる場合には手術と薬で癌細胞を殺す治療、そして放射線で癌細胞を焼き殺す、癌と同じ治療を行います。
扁平苔癬の原因
基本的には扁平苔癬のはっきりとした原因は不明です。その中で最も有力な説は、アレルギーによるものと言われています。分かりやすいものとして、金属アレルギーを原因として引き起こされたものもあります。例として、アマルガムという金属が口の中にあり扁平苔癬になった患者様を対象とした研究を紹介させて頂きます。アマルガムとは日本ではかつて詰め物として使われていた金属です。現在では治療に使用することはありませんが、昔に治療を受けた患者様の口の中にアマルガムが入っていることは珍しくありません。この研究ではアマルガムを取り除いた結果、扁平苔癬が改善したと報告されています。つまり扁平苔癬の陰に金属アレルギーの存在がある可能性は高いと言えると思います。
はっきりした原因は不明だが、最も有力な説はアレルギー
その他に肝臓に問題があることで起こる場合もあります。特にC型肝炎に関連して引き起こされるという報告もあります。その他、糖尿病や高血圧なども扁平苔癬になることに関わっていると言われています。
扁平苔癬の治療法
扁平苔癬は治りにくい病気です。ただれた部分に対してはステロイドという炎症を抑える薬が入った軟膏を塗ることが有効ですが、白い部分を治すことは難しいと言われています。どのステロイドが効果的であるかについてははっきりしたことが言えません。つまり確かな根拠を持って薬を選ぶことさえできない病気と言えます。これが扁平苔癬の治療の難しいところです。
金属アレルギーが原因であると疑われる場合
金属アレルギーが原因であると疑われる場合は、口の中の金属を撤去します。この場合は症状が良くなる可能性があります。その他は炎症を抑える薬に加えてビタミン製剤、そして抗アレルギー薬、精神安定薬などを用いることもあります。
最新の治療法
レーザーによる治療が有効であるとされる研究結果も出ています。数あるレーザーの中でも「ダイオード・レーザー」と呼ばれる治療器具が使用されます。ステロイドの軟膏の一つであるクロベタゾールという薬よりも効果が高いと報告されていますが、まだまだ研究を重ねる必要がある治療法です。気になる方は歯科医師と相談しても良いかと思います。
扁平苔癬や白板症、紅板症は癌化する!?
扁平苔癬、白板症、紅板症は全て癌化する可能性を持っています。
紅板症は癌化する可能性が高い
紅板症は癌化する可能性が高いと言われています。紅板症を見つけた時に癌でなかったものが癌になる頻度は、幅がありますが25%~75%と言われています。
白板症や扁平苔癬が癌化する可能性はそれほど高くない
白板症や扁平苔癬はそれ程高くはありません。白板症が30%以下で、扁平苔癬は10%以下です。しかし先述の症状を見つけて歯科医院を受診した際や、定期的に通院している時に、今回取り上げた前癌病変や前癌状態が見つかった場合は癌になる危険性が高いと解釈して差し支えないでしょう。
扁平苔癬や白板症、紅板症は自然治癒する?
残念ながら自然治癒はしません。そのためこれらの病気を治癒させるには、
- 何の病気なのかをはっきりとさせること
- その病気に必要な治療を行うこと
- 様子を見続けること
といった3つのステップが必要です。
1、何の病気かを突き止めること
生体組織診断と呼ばれる検査を行います。麻酔をして異常がある場所の一部を取り出し、顕微鏡で観察することで病名を決めます。
2、それぞれの病気に必要な治療を受ける
3、様子を見続ける
治療が一通り終わったら、指定された間隔で様子を見ていきましょう。病気の部分が癌化しても初期に見つかります。癌治療は早ければ早いほど命を落とす危険性が減ります。定期的な歯科医院の通院から始めて、前癌病変や前癌状態があっても適切に行動してください。
扁平苔癬 まとめ
最後に扁平苔癬について重要な点をおさらいしておきましょう。
- 扁平苔癬とは、口の中の表面が分厚くなり、その下で免疫成分が集まっている状態
- 白い線が現れ、痛む
- 詳しい原因は分かっていないが、アレルギー説が有力
- 治療は難しいが、原因を調べ、それを取り除くことが効果的
- 似たような病気に白板症、紅板症がある
- どれも癌化する可能性があるが、紅板症が最も高い
- 自然治癒はしない
- まずは歯科医院を受診することが大切
いかがでしたか。我々が運営しております”どくらぼ”には、他にも皆様の大切な歯に関する情報が盛りだくさんです!是非他の記事にも目を通していただき、正しい知識を身に付けてくだされば幸いです。今後とも”どくらぼ”を宜しくお願い申し上げます。最後までご覧頂きましてありがとうございました。
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