親知らずを全身麻酔で抜くとどうなる??
親知らずを全身麻酔で抜く場合のメリット
まず初めに親知らずを全身麻酔で抜歯するメリットについてご説明いたします。
1、抜歯中の痛みを感じにくい
最も大きなメリットは抜歯中の痛みや恐怖心を感じない事です。全身麻酔中は全く意識がありませんので痛みや恐怖心を感じることはありません。抜歯中の振動や音、先生とスタッフの会話など治療中に恐怖心を感じる全てのことを感じないのです。局所麻酔のみの抜歯の場合は抜歯が終わるまで痛みや不安を感じる心配があります。
2、数本の歯を同時に抜歯することが出来る
通常局所麻酔だけで抜歯をする場合は、局所麻酔の投与量や局所麻酔の効果時間が限られてしまうため上下の親知らず2本を抜くのも大変です。しかし全身麻酔下での抜歯では、麻酔の効果も長く投与量も少なくて済むため多数の歯を同時に抜歯することが可能です。その為、上下左右4本の親知らずの同時抜歯や虫歯や歯周病などで10本以上の歯を同時に抜くことも可能になります。
3、抜歯以外の処置も同時にすることが出来る
抜歯だけに限らず歯科治療は怖く不安のある処置が多くあると思います。全身麻酔下では痛みを感じることなく虫歯の治療や歯周病の手術、インプラント手術などを同時に行う事も可能になります。虫歯が多く沢山の歯を治療しなければいけないのに、何度も歯科医院に通院できない場合などは全身麻酔下で一気に歯を削ることもできます。
そもそも全身麻酔とは?デメリットはある?
次に全身麻酔についてお話をしていきます。そもそも全身麻酔とはどのようなものなのでしょうか。薬を注射して眠っている状態のように考えている方も多いと思いますが、実は非常に大変な麻酔なんです。大掛かりな手術であることをご理解ください。
1、全身麻酔時は自分で呼吸が出来ない
全身麻酔で最も大事なことは自分で呼吸が出来ない状態になっているということです。その為、口や鼻から管を気管まで挿入して、人工呼吸器に繋がないと死に至ることがあります。気管まで管を挿入する場合には患者さんは既に意識がなく、自分で呼吸出来ない状態になっていますのでスムーズに管を入れられなければ大変なことになります。
2、全身麻酔をしても体は痛みを感じている
当然、全身麻酔をすると痛みを全く感じることはありません。意識がありませんので痛みとして覚えてはいないのですが、血圧の上昇や心拍数の増加などで体は痛みの反応を示します。その為、全身麻酔をしても局所麻酔を使って血圧の上昇や心拍数の増加などが無いようにコントロールしていきます。
ずばり、全身麻酔で親知らずを抜けば痛くない?腫れない?
全身麻酔で親知らずを抜くと痛みは全く感じないのでしょうか?そして全身麻酔で抜歯をすると腫れることもないのでしょうか?
1、痛みに関して
全身麻酔をして抜歯をすると先ほどもお話したように術中は全く痛みはありません。しかし術後の痛みに関しては局所麻酔を使って抜歯をした場合と同じ痛みがあります。全身麻酔をしたからといって抜いた後の痛みが軽減されることはありません。通常痛みのピークは術後24時間ぐらいで、そこから徐々に痛みが落ち着いてきます。
2、腫れに関して
残念ながら全身麻酔をしても、局所麻酔で抜歯をしても腫れは必ず出ます。特に骨を削るような大変な抜歯の場合は腫れも大きくなってしまう事が多いです。入院下で抜歯した場合や全身麻酔で抜歯した場合はステロイドなどを用いて腫れを少し和らげるような薬を使ってくれることもありますが、完全に腫れを抑えることはできません。腫れのピークは48時間ぐらいと言われていますが、1週間ほど腫れが残ることも珍しくはありません。
全身麻酔にかかる費用は?保険は適応?
基本的には保険適応です!
しかし、全ての患者さんに全身麻酔が適応になる訳ではありませんので注意が必要です。
全身麻酔の保険適応について
- 歯科治療に対して恐怖心がとても強く局所麻酔では親知らずを抜歯出来ないような患者さん
- 虫歯や歯周病などが原因で上下左右4本の親知らずを同時に抜歯しなければいけない場合
などは全身麻酔下での抜歯が適応となります。しかし、矯正治療で親知らずを抜歯する必要がある場合等などは保険の適応がありませんので注意が必要です
全身麻酔での抜歯の費用について
全身麻酔で抜歯を行う場合の麻酔料は30,000円程度です。全身麻酔料は使用する薬剤や使用量によって金額が変わってきますので事前に担当医と相談しましょう。これ以外に抜歯の費用や入院費などもかかり
トータルで70,000円前後
の費用がかかります。
親知らずを全身麻酔で抜歯する場合は何泊することになる?
全身麻酔で親知らずを抜く場合は、1泊入院になる場合が多いです。しかし抜歯後の出血が止まらない場合や感染が強い場合などは数日入院しなければいけない場合もあります。なぜ全身麻酔下で抜歯をするのかによっても入院日数が変わることがありますので、主治医の先生とよく相談することをお勧めします。全身麻酔では無く、静脈内鎮静法などで親知らずを抜歯する場合には日帰りになることもあります。
禁煙・禁酒、その他全身麻酔の準備は必要?
全身麻酔をするために禁煙や禁酒をする必要はありませんが、入院するとお酒は飲めません。また敷地内が全面禁煙になっている病院も多いですので入院すると喫煙出来ない場合もあります。さらに全身麻酔の場合は鼻や口からチューブを入れますので、
術後の不快症状を少なくするためには、手術前2週間ぐらいは禁煙をしていた方が無難
であると思われます。手術前の体調管理をしっかりとする意味でも禁酒を1週間ぐらい前からすることもお勧めします。手術の予約をしていても、発熱や風邪の症状などで入院しても手術が出来ない事や入院自体がキャンセルになってしまう事もあります。手術後の健康も考えるとこの機会に禁煙するのも良いかもしれませんね。
全身麻酔下での手術となると尿道カテーテルを入れなければいけない?
必ずではありません。手術時間が短い場合や術後の侵襲が少ない場合には尿道カテーテルを入れない事もあります。全身麻酔下での抜歯の場合は尿道カテーテルはいれない事が多いです。しかし抜歯が極端に困難で長時間がかかる事が予測される場合や、年齢などの理由から麻酔覚醒後のトイレへの歩行が困難なことが予想される場合には尿道カテーテルを入れることもあります。尿道カテーテルが入った場合は術後の覚醒状態や歩行状態を確認して安全であれは、すぐに抜く場合もあります。術前に主治医の先生に確認しておくことをお勧めします。
実際に全身麻酔で親知らずを抜歯する場合の流れ
1、術前検査
初めは入院前に検査を行います。血液検査や尿検査、心電図、呼吸機能検査、胸部レントゲン検査などを行います。全身麻酔を行っても問題の無い体のかどうか、感染症が無いかどうかなどのチェックをしています。問題が無い場合は検査結果などの詳しい説明が無い場合が多いですので、気になる方は主治医に聞いてみましょう。
2、麻酔科の先生の問診
入院後の手術前日に麻酔科の先生の問診があります。現在の状態の確認や全身麻酔の危険性やリスクなどの説明があります。滅多に起こることではないのですが、全身麻酔をかけたことが原因で死に繋がってしまう事もあります。この時、同意書のサインも記載する必要があります。未成年の場合などは同意書のサインが2名必要な場合もありますので、親や親せきなどに頼んでおく必要があります。
3、前日の食事
通常手術の前日の夜まで食事は食べることが出来ます。夕食後は次の日の手術終了まで食事をすることが出来ません。水分は通常手術の2時間前ぐらいまでは取ることが出来ます。
4、入室前
手術の数時間前に気分を落ち着かせる薬を内服します。手術用の前開きの服に着替えます。腕や手の甲などから点滴を開始します。通常は脱水にならないように、水分が取れなくなった後に点滴を開始して脱水になることが無いように配慮します。ストレッチャーに乗り手術室へと運ばれます。病棟の看護師さんから手術場の看護婦さんへの申し送りがあり、入室します。
5、入室後
ストレッチャーから手術台へ移動します。
麻酔科の先生が一度歯の状態を確認します(挿管時に歯を折ることが無いように)。
6、酸素開始
酸素マスクをあてがわれゆっくり呼吸しているように指示されます。
7、静脈麻酔の開始
入室前に確保された点滴から静脈麻酔が注入されます。だんだんボーっとした感じになり眠くなってきます。麻酔薬が入ってくる刺激で点滴の挿入部がチクチクと痛むことがあります。この後、数十秒で意識はなくなります。
8、人工呼吸
麻酔科の先生がマスクとバックを使って人工呼吸を開始します。しっかり呼吸ができることを確認しています。
9、吸入麻酔薬の開始
吸入麻酔薬がマスクから流れてきます。意識は全くありません。
10、筋弛緩薬投与
反射が起こらないように筋弛緩薬(筋肉を動かなくさせる薬)が投与されます。
11、挿管
抜歯手術の場合は鼻から挿管されます。鼻に綿棒で表面麻酔などをして左右のチューブの通り易さを確認後、どちらかの鼻からチューブが挿管されます。喉頭鏡と呼ばれる器具を用いて口から喉頭を見えるように喉を開き、鼻から入れたチューブの先を声門の少し先までいれます。その後気管にチューブが入っているかを聴診器を用いて肺の音を確認して、人工呼吸器に接続されます。
12、尿道カテーテル
尿道カテーテルは抜歯などの短い手術の場合は入れない事がほとんどです。しかし高齢者や手術後の歩行困難が予想される場合には挿管後に尿道カテーテルを挿入します。
13、消毒
口の中の手術の場合は顔の消毒を行い、その後口の中の消毒が行われます。手術用の口の部分だけ穴の開いた覆布をかぶせて手術開始となります。
14、手術中
手術中は意識はありませんが痛みがあると血圧や心拍数の増加になって現れます。麻酔薬の濃度を高くしたり、血圧を下げるお薬などが投与されます。手術終了まで体に大きな負担がかからないようにコントロールされます。
15、手術終了
筋弛緩薬の拮抗薬が投与され、徐々に吸入麻酔の濃度が下がってきます。最後には酸素だけの状態になります。麻酔が切れてくると徐々に自発呼吸が出てくるようになります。自発呼吸が出た後に鼻から気管に入っていたチューブを抜き取ります。
16、覚醒
チューブを抜いた後は意識が戻っています。かなりボーっとした状態ではありますが麻酔科医から名前を呼ばれるのが聞こえます。「手を握ってください」、「舌を前に出してください」、「目を開けてください」などの指示をされますので従いましょう。
17、退室
手術台からストレッチャーに移されて退室します。まだ自分では立てる状態では無くかなりボーっとしている状態です。
18、病室へ
ストレッチャーから病室のベッドへ移され手術終了となります。通常麻酔薬の影響や安心感もあり、その後入眠する患者さんがほとんどです。
全身麻酔を行う上で、どんな病院を選ぶべき?
次に全身麻酔を行う上でどのような病院を選べば良いかご説明していきます。まず全身麻酔を行う場合は入院施設がある病院を選ばなければいけません。
入院施設のある病院は
- 入院施設のある開業歯科医院
- 入院施設のある開業医院
- 大きな総合病院の口腔外科
- 大学病院の口腔外科
以上の4つが考えられます。静脈内鎮静法などで抜歯をする場合は1、入院施設のある開業歯科医院を、全身麻酔下で抜歯をする場合には3、大きな総合病院の口腔外科と、4、大学病院の口腔外科をお勧めします。
1、入院施設のある開業歯科医院
入院施設を持つ開業歯科医院は元々大学病院などの口腔外科の先生が開業した場合が多く抜歯の技術は信頼がおけますが、全身麻酔の経験はそんなに多くは無いと考えられます。またこのような歯科医院自体が少なく探すのが非常に困難です。
2、入院施設のある開業医院
個人の開業医の中で歯科がある場合ですが、口腔外科の技術があるかどうかは不明なため抜歯の技術に疑問が残ります。全身麻酔のケースは他の診療科でのケースもありますので比較的安心して麻酔を受けられると考えられます。
3&4、大きな相応病院の口腔外科と、大学病院の口腔外科
技術的な問題や全身麻酔の問題点も少なく最も推奨される病院だと考えられます。しかしこれらの病院は非常に混んでいるため入院がいつになるか解らなかったり、重症患者さんなどがいると延期になったりすることがあります。
アメリカでは全身麻酔で親知らずを抜く人も多い
アメリカでは全身麻酔で抜歯をする患者さんも多くいることを耳にします。日本からアメリカに行って全身麻酔で親知らずを抜歯する患者さんもいるくらいです。これはアメリカの治療が健康保険制度になっていない事が大きな理由の一つです。後述しますが、日本では全身麻酔下での抜歯は全ての患者さんが希望をすれば受けられる処置ではありません。全身麻酔下で抜歯をする理由や歯科医師の診断が必要になります。しかしアメリカでは自費診療になっていますので希望があれば全身麻酔下で抜歯をすることが出来るのです。
親知らずを全身麻酔で抜歯する場合 まとめ
最後に全身麻酔での親知らず抜歯について、重要な点をおさらいしておきましょう。
- 全身麻酔では意識が無いので抜歯中の痛みは感じない
- 全身麻酔では数本の歯の抜歯をすることが出来る
- 全身麻酔では抜歯以外の処置も同時にすることが出来る
- アメリカでは全身麻酔で親知らずを抜く人も多い
- 全身麻酔では自分で呼吸が出来ない
- 全身麻酔をしても血圧の上昇や心拍数の増加となって痛みが現れる
- 全身麻酔をしても術後の痛みはある
- 残念ながら全身麻酔をしても腫れは必ず出る
- 全身麻酔の抜歯は歯科医師の診断があれば保険適応になる。
- 全身麻酔での抜歯の費用は麻酔料が30,000円程度でトータルで70,000円前後かかる
- 全身麻酔での抜歯は通常1泊入院になる
- 全身麻酔をするために禁煙や禁酒は必要ないが、出来れば望ましい
- 全身麻酔で抜歯をする場合は大きな総合病院の口腔外科か大学病院の口腔外科が信頼できる
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