抜歯をしたことがある人もない人も、一番不安に思うことは抜歯後の痛み。実は「痛くなかった」という人、「痛かった」という人、どの人の声もあまり参考にはならないのが抜歯の現実です。
抜歯の痛みは通常徐々に治まっていくものです。ところが中には激痛と言えるほどひどい痛みに悩まされることがあります。よくなるはずの抜歯後にひどい痛みが襲ってくる「ドライソケット」についてお話ししていきます。
そもそもドライソケットって何?
ド ライソケットは一般的にあまり知られていない言葉で、抜歯窩治癒不全(=抜歯後の治りが悪いこと)のひとつです。抜歯後は半日から3日程度で痛みが治まる のが一般的ですが、ドライソケットの場合痛みの程度が非常に強いのが特徴です。麻酔が切れるころはそれほどでもなかったのに次第に痛みが激痛へと変わって いきます。この痛みは数日経ってもなかなか治まらず、冷たいものや風などがひどくしみる、触ると痛いなどの症状が見られ明らかに正常な治り具合とは異なり ます。
ドライソケットは白い!?
ドライソケットは通常の炎症や化膿した状態とは違い、見た目にはそれほど赤みや腫れはあ りません。抜歯した部分にはぽっかりとした穴が開き、傷の中が白っぽく見えます。通常抜歯後の穴には血餅という赤黒いゼリー状をした血液の塊ができます。 血餅はかさぶたのような役目をして傷を刺激や細菌から保護しています。ところがドライソケットでは抜歯後の穴が血餅によって保護されず骨が露出した状態に なるために強い痛みを引き起こすとされています。
5人に1人は骨がむき出しに!?
ドライソケットは抜歯をした人の 2~4%に起こるといわれ、特に下顎智歯(=下の親知らず)では20%近い割合で起こるといわれています。下顎の骨の方が上顎より密度が高く硬いために出 血が少ないことや、親知らずの抜歯は大変なことが多く細菌による感染がおこりやすいこともその理由のようです。ドライソケット特有の強い痛みは1~2週 間、ひどい場合1ヶ月以上続くケースもあります。あらゆる刺激に敏感になっているため日常生活にも支障を来すほどの強い痛みが続きます。
しかしこの痛みも徐々に抜歯窩(=抜歯後の穴)が歯茎で覆われ痛みも軽くなっていきます。中には露出していた骨からさらに奥へ細菌が侵入して炎症が広がることがありますが、ほとんどは抜歯窩が少しずつ埋まり自然に治ります。
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ドライソケットに陥る患者には女性が多い!?
ドライソケットはさまざまな年代の人、そして男女問わず起こり得ます。その人の健康状態や生活週間などにも関係していますが、男性よりも女性のリスクが高いとされています。それは女性特有の生理と関連しているようです。
生理周期とドライソケットに密接な関係があった。
女 性は生理周期によってエストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)という2つのホルモンが分泌されます。エストロゲンは生理が終わった ころから増え始め排卵前がピークになります。そして排卵が終わったころから月経に向けてプロゲステロンが増加します。この2つのホルモンは女性の体調に大 きく関係しています。エストロゲンが分泌されている間は比較的新陳代謝も盛んで気分もいいものですが、排卵が終わりプロエストロゲンの分泌がエストロゲン を上回る生理前の時期はイライラしたり便秘になりがちだったりと徐々に体調が落ち着かなくなります。そしてこれら2つのホルモンがどちらも低下する生理中 は体調最悪の週。抵抗力も落ちて気分も落ち込みます。
生理中は親知らずの傷が治りにくい
このような生理周期の体の変化か ら見ると、特に生理中は傷の治りが悪く抵抗力も落ちていることから細菌に感染しやすいということがいえます。また、エストロゲンは骨ができる働きを促し吸 収を抑える働きを持っています。そのためエストロゲンが急激に減少する閉経後は骨粗しょう症になりやすいこともよく知られていますね。年々減少していくだ けでなく生理周期によって変動のあるエストロゲンの状態によっては骨の再生能力が落ちたり感染を起こしやすくなるといえます。ただしこれはあくまでも可能 性の範疇で、必ずしもそうであるとはいえません。個人差もありますので、自分の体調とも相談しながら治療の予定をたてるといいでしょう。
ドライソケットは女性の方がなりやすい可能性がある。
経口避妊薬を服用しているとドライソケットになる??
経 口避妊薬にはプロゲステロンと同じような働きをする物質とエストロゲンからできています。この薬を決められた期間服用と休止を繰り返すことでホルモンの働 きをコントロールして排卵や生理を調節します。日本で使用されている経口避妊薬は低用量ピルというもので、女性ホルモンの強さが弱いタイプのものです。避 妊薬としては成功率・安全性共に高い薬だといわれていますが当然ながら副作用もあり、特に大きなものとして静脈血栓を起こすリスクが上がるとされていま す。これは含まれているエストロゲンに関係していることはわかっていますが、ではなぜドライソケットにも関係するのでしょう。
経口避妊薬は血餅を溶かす可能性がある
経 口避妊薬には「血液凝固因子増加作用」と「線溶系亢進」があるといわれています。「血液凝固因子増加作用」とは血液が固まるのを促進するという働きを持つ ことを意味し、「線溶系亢進」とは一度固まった血液を異物として再び溶かす働きを促進することを意味しています。この一度固まった血液というのが抜歯窩に ある血餅にあたります。抜歯後の穴を保護するために必要な血餅が経口避妊薬の持つ作用によって溶かされてしまうためにドライソケットになるリスクが高くな ると考えられます。
そのため経口避妊薬は比較的長く作用する薬ですので、少なくとも1週間できれば4週間程度は服用を中断して抜歯することでドライソケットの予防につながるといわれています。
ドライソケットになる代表的な原因教えます!
ド ライソケットになる原因にはいろいろなものがありますが、最大の原因は抜歯窩が血餅によって塞がらなかったことにあるとされています。つまり抜歯後にでき る傷の穴に血液が溜まって塊になりかさぶたのようになって治りを促すという正常な働きが何らかの理由によって阻害されたことが原因なのです。それ以外にも いくつかの原因が考えられますのでピックアップしてみましょう。
- 血餅が取れてしまった
- 血餅ができなかった
- タバコを吸っている
- 血圧がもともと低い人
- 唾液の分泌が悪い人
- 抜歯後の骨が尖っている
- 噛み合う歯が伸びていて食べ物が押し込まれる
概ねこれらのものが理由として挙げられます。特に血餅ができなかったためにドライソケットになったケースが最も多く、それもちょっとした不注意や慢心によって引き起こされることも少なくありません。
ドライソケットは、何らかの理由で傷に対する正常な治癒の過程が進まなかったことが原因です。そこでドライソケットになる原因として考えられるものについて、さらに詳しく解説していきましょう。
1. 血餅が取れてしまった
抜歯窩(=抜歯の後の穴)にあるべき血餅(=血液の塊)が取れてしまい、歯の周りにある歯槽骨がむき出しになり細菌感染を起こして強い痛みを起こします。
●うがいのし過ぎで血餅がとれる
一 番多いのがこのケースでしょう。抜歯の後はしばらく違和感があり血の味がするなど、あまり気持ちのいいものではありません。そのためどうしても何度もうが いをする人がいます。中には血餅そのものが気持ち悪く感じて強くうがいをしたり、感染の不安から消毒薬を使って何度もうがいをする人がいます。こうして抜 歯窩にできた血餅が取れてしまうことがあります。そのため抜歯後はあまりうがいをしないよう注意を促します。
●舌でいじってしまった
抜歯後の傷が気になったり血餅が気になりつい下でいじってしまうと血餅が押し出されたり取れてしまうことがあります。
●抜歯窩の血液を吸ってしまった
抜歯窩にできたゼリー状の血の塊が気になり、意識的あるいは無意識に吸い出してしまうことがあります。
●食べ物や飲み物などを吸う動作
例えば傷に影響しないようにとストローで強く飲み物を飲んだり、食事がしづらいとウィダーinゼリーのようなものをぎゅーっと吸って食べたりすると、その動きと一緒に血餅が吸い出されてしまうことがあります。
●頬で傷口に力を加えて押し出された
傷が気になり頬にギュッと力を入れるたり舌で押すなどして傷口に力をかけたために血餅が押し出されることがあります。
●せきやくしゃみなどの突然の自然現象
せきやくしゃみなどの力で血餅が飛び出てしまうことがあります。
2. 血餅ができなかった
●出血が少なかった
・血管収縮剤の影響
抜 歯の際には麻酔をしますが、麻酔薬の中には麻酔の効果を高め持続時間を長くするためにエピネフリンなどの血管収縮薬が含まれています。親知らずなどの難抜 歯(=簡単には抜けない抜歯)では麻酔が効かなかったり途中で切れたりして追加することもしばしばあります。そうすると血管が収縮する度合いも強く時間も 長くなるため、出血が少なくなることがあります。通常はそれほど影響のない程度ですが、中には過剰に少なくドライソケットになるケースもあります。
・骨が硬い
長期間炎症があった歯の周りの骨は、炎症に対する防御反応で骨の密度が高まり硬くなっていることがあります。また、上顎より下顎の方が骨の密度は高く硬いこともわかっています。骨の密度が高く硬いと出血が少ないことも多く血餅ができにくいといわれています。
・抜歯中の問題
抜 歯は十人十色で同じ人はいません。ただ、中には歯の根が先に行くにつれて肥大しているものや骨と癒着している、真横を向いて埋まっているなど抜歯が困難な ケースもありあす。このような抜歯では通常の抜歯のようにすんなりいかず、歯や骨を削って抜くことがあります。このような難抜歯の最中に器具によって骨を 傷つけたり、骨や歯を削る際に長い時間水をかけながら削ったことでドライソケットになることがあります。
・消毒剤の化学的な作用
消 毒薬は傷の感染を防止するために使用する薬です。つまり感染の原因となる細菌を殺す(殺菌)働きを持っています。しかし、悪い細菌やその働きだけを標的に して殺す薬はないといっていいでしょう。そもそも殺菌とは細菌の持つ細胞そのものを打撃する作用によって菌を殺します。しかし、体の中(口の中)には私た ちの体の細胞もあるわけで、消毒薬が細胞を阻害する働きが少なからず作用することは十分に考えられます。特に抜歯後の傷は剥き出しの状態でありこういった 薬剤の作用をもろに受ける可能性は否定できません。また、悪い菌は必ず口の中には存在するため、傷から菌を取り除くことは不可能であるだけでなく逆に菌が いるから必ず化膿するというわけでもありません。あくまでもケースバイケースですが、消毒薬が過剰に働かないよう頻繁に使用することや正しい容量を守らず 濃度の高いものを使うことは避け、指示された使い方を必ず守ることが大切です。
●出血が多かった
・抜歯後にアルコールを飲んだ
飲酒すると血管が拡張するため出血が多くなります。中にはこれくらい大丈夫と注意を受けたにもかかわらず飲酒する人もいますが、だらだらと出血することで血が固まらず常に流れ出て血餅ができにくいことがあります。
・抜歯後に激しい運動をした
アルコールと同様に運動も血管を拡張して血流をよくします。そのため出血が止まらず血餅が流れ出てしまうことがあります。
・抜歯後に長湯をした、熱い風呂に入った
お風呂で体を温めることで血管が拡張し出血が止まりにくく血餅ができないまま流れ出てしまうことがあります。
・血液を固まりにくくする薬を飲んでいる
病 気の治療や予防のために一般的には血液サラサラと呼ばれている血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人は出血が止まりにくいことがわかっています。それに は抗凝固薬や抗血小板薬、BP製剤(ビスフォスフォネート剤)があります。抗凝固薬はワーファリン(ワルファリン)がよく知られています。抗血小板薬に は、チクロピジンやシロスタゾール、アスピリンなどがあります。また歯科で注意が必要とされているBP製剤には、フォサマックやボナロンなどがあります。 BP剤は抜歯後に顎骨の壊死が起こることがあると報告されており、ドライソケットに限らず口の中の外科処置をする際には注意が必要です。基本的には血液が 固まりにくくする薬を服用している人は、主治医の先生と相談して安全とされる一定期間服用を中断してから抜歯を行います。場合によっては抜歯をせず保存す る処置をとることもあります。
・血圧が高い
血圧が高い人は出血傾向にありなかなか止まりません。また、血圧の上昇を防止するために麻酔薬も血管収縮剤を含まないものを使用します。
3. タバコを吸っている
タ バコは歯周病の原因として知られていますが、抜歯後の治りが悪くなることもわかっています。その最大の理由は、喫煙によって毛細血管が収縮し血行が悪くな るためです。血行が悪くなると出血も少ないだけでなく、抜歯後の傷が治るために必要な栄養がきちんと補給されず治りも悪くなります。できればしばらくの間 禁煙した方がいいでしょう。
4. 血圧が低い人
血圧が低い人は血液の循環が悪く出血が少ない傾向にあります。そのため必要な血餅が作られずドライソケットになるリスクが高くなります。
5. 唾液の分泌が悪い人
唾液は口の中を洗い流す働きを持っています。唾液が少ないと虫歯や歯周病のリスクも高くなることはわかっています。口の中が乾燥していると抜歯窩に血液がたまくりにくく血餅ができにくいといわれています。
6. 抜歯後の骨が尖っている
抜歯の後には歯が入っていた形で骨に穴が残ります。ときどき複数ある歯の根の間に合った部分の骨は薄く尖っていることがあります。そういった場所が部分的に露出したり歯茎が再生するのを妨げることがあります。そうすると傷の治りも悪くなり強い痛みが起こることがあります。
7. 噛み合う歯が伸びていて食べ物が押し込まれる
歯 は本来、上と下が一対となってその高さに留まっています。しかし親知らずが傾いて生えていたり虫歯などで歯が折れたり欠けたりして余分な隙間ができたまま 長期間放置したために対合歯(噛みあう歯)が伸びてしまうことがあります。その状態が長く続くとさらに対合歯は伸びて終いにはほとんど隙間がない状態にな ります。その状態で抜歯をすると、伸びた歯によって食べ物などが噛むたびに抜歯窩に押し込まれ不潔な状態になるだけでなくせっかくできた血餅を押し出して しまうこともあります。当然細菌が繁殖して炎症を起こす原因となり、ドライソケットのリスクがたかまります。
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あなたもドライソケット??ドライソケットの代表的な症状。
抜歯後に痛みはつきものですが、もしかしたらドライソケットかもしれないと不安になる人もいるでしょう。そこで、ドライソケットにみられる主な症状をあげてみます。
- 抜歯して2~3日くらいして痛みが強くなり数日たってもなかなかひかない
- 耳や顎、こめかみあたりまで強烈な痛みがある
- 口を開けるのもつらいほどの痛み
- 飲食するとひどく痛む
- 触ると激痛
- 風も痛い
- 抜歯窩の中が白っぽい
- 下顎の親知らずを抜歯した
ドライソケットにみられる具体的な症状
1. 抜歯して2~3日くらいして痛みが強くなり数日たってもひかない。
これはドライソケットに最もよく見られる症状です。通常の抜歯では、抜歯後半日~3日程度で痛みはかなり軽減するものです。しかし、ドライソケットでは痛みがひくどころか我慢的ないほどの痛みが1~2週間、長い人では1ヶ月以上も続くことがあります。
2. 強烈な痛みが続く
ドイソケットの痛みはかなり強いのが特徴です。処方された鎮痛剤を服用しても、はじめのうちは2~3時間程度しか効果がなく痛みが再びぶり返します。ずきずきとした強烈な痛みで夜も眠れないほどです。
3. 口を開けるのもつらいほどの痛み
ド ライソケットに限らず奥歯を抜歯した場合などに開口障害(口を開けにくい、開けると痛い)が見られることがあります。これは抜歯後の炎症が原因ですが、ド ライソケットでは口を開ける時の歯肉や筋肉の動きだけでも痛みを感じることがあるため、口を開けるのがつらい状態になります。
4. 飲食するとひどく痛む
物を食べる、飲むということは口の中に温度、形、大きさの違うさまざまなものを入れて噛み砕く必要があります。このようなちょっとしたことのすべてがドライソケットには刺激となり痛みを起こします。そのため食事もままならないという人が多いのも特徴です。
5. 触ると激痛
ドライソケットの部分に舌や食べ物、水などあらゆるものが触れるだけでが激しい痛みを感じます。
6. 風も痛い
剥き出しになった歯槽骨は強い知覚過敏の状態にあるので、息を吸った時の風までしみて痛みます。
7. 抜歯窩が白っぽい
これはドライソケットの典型的な外観で骨が剥き出しになっているために白っぽく見えます。
8. 下顎の親知らずを抜歯した
ドライソケットはあらゆる部位に起こりますが、下顎の親知らずが多いと言われています。その理由は、上顎より下顎の骨が硬く出血が少ないことや親知らずの抜歯は難抜歯になることが多く歯や骨を削って抜くことも少なくないためドライソケットのリスクが高いといえるからです。
ドライソケットの治療方法~自宅編~
ドライソケットを自分でなんとかするのは難しいといえます。でもどうしても仕事や家庭の関係で治療に行けない時が自宅で痛みを和らげるしかありませんね。そこで自宅でできることはなにかをピックアップしてみましょう。
- 痛み止めを飲む
- 安静にしておく
- 痛みのツボをマッサージする
え?これだけ?と思うでしょうが、実はドライソケットに対して自宅でできる治療はほとんどありません。基本的には痛み止めがない場合は市販の痛み止めを飲むなどして対症療法をすることや、体を休めて抵抗力をつけ徐々に治っていくのを待つのが最善策です。
自宅でできるドライソケットの応急処置について詳しく説明
1. 痛み止めを飲む
痛 み止めは歯科医院で処方されます。ロキソニンやボルタレンなどが多いようですが、痛みが強く効果も長続きしないのですぐに飲み切ってしまうことも多いよう です。でも歯科医院で1ヶ月に処方できる量は限られているためむやみに処方することはできません。そこで心強いのが市販の痛み止めです。ロキソニンSなど 医療機関で処方されるものとそれほど効果の変わらないものが市販されているほか、バファリンなどもよいでしょう。ただし痛み止めを過剰に飲み過ぎると胃を 悪くすることもありますので注意しましょう。
2. 安静にしておく
ドライソケットになる原因として抵抗力の低下も挙げられます。そこでしっかり休養と栄養をとり体力を回復することで自然治癒力を高めるのも大切なことです。
3. 痛みのツボをマッサージする
歯 の痛みや抜歯後の痛みに効果があるツボを知っておくと便利です。「合谷」というツボは歯の痛みに最も国府方あると言われています。合谷は手の親指と人差し 指をくっつけた根本あたりにできる膨らみで、ここを人差し指の骨の下に向けて強く押します。押すとそこに痛みがあるのですぐにわかります。このツボを押し ていると少し楽になる…かもしれません。
ネットにあった危険な応急処置
ネットなどで「抗生剤の塗り薬をガーゼなどに塗っ て穴に入れる」と書かれているものもありますが、これは絶対にやめてください。まず、その塗り薬に抗生剤が入っているか、また傷に対して問題ないものかが 確認できない上に抜歯窩を不衛生な物で触り傷をつけて炎症を起こす原因ともなりかねません。口の中の傷はよく見えませんし触るだけでも激痛がありますか ら、できるだけ歯科医院を受診するようにしましょう。
ドライソケットの治療方法~歯医者編~
もしドライソケットになってしまったら、どんな治療法があるのでしょう。歯医者で受ける治療法をあげてみます。
- 消毒しながら経過をみる
- 鎮痛剤と抗生剤の服用
- 抜歯窩に抗生剤の軟膏をいれて外科用パックで覆う
- 抜歯窩に抗生剤の軟膏をつけたガーゼを詰める
- 抜歯窩にユージノールセメントを入れる
- 抜歯窩の再掻把を行う
- 高周波治療器を使った消炎処置
これらの治療法は併用することによってさらに効果が高くなり痛みや炎症が軽減することもあります。しかしドライソケットはやはりすぐに治るものではなく時間をかけて徐々に回復していきます。しばらくは患者さんも我慢を強いられることになります。
ただ、ドライソケットについてはいろいろな考え方があり、先生によってどのような考え方で処置を行うかが違いますので、説明をしっかり聞いて患者さん自身がどのようなことに注意すればいいのかをきちんと理解しておくことが大切です。
歯医者で行われるドライソケットの治療法について分かりやすく解説
1. 消毒しながら経過をみる
ド ライソケットは時間と共に傷が回復して抜歯窩が塞がってくると自然に治っていきます。そのため積極的な治療は行わず歯科医院で適切な消毒処置を行いながら 経過をみていきます。痛みが軽くなるまで数日に1回は受診する必要があります。消毒処置だけなら再診料のみですので数百円ですみますが、自然治癒するまで 痛みはしばらく続きます。
2. 鎮痛剤と抗生剤の服用
痛みを抑える鎮痛剤と炎症を抑える抗生剤を投与して抜歯後の炎症と 痛みに対処します。ただ、どちらも劇的な効果はそれほど期待できないようです。消毒処置と併用してこれらを処方することが多いようです。痛みなどの症状が 軽くなるまで受診して投薬を続けることになりますので、しばらくは3~4日おきに通院が必要です。費用は再診料と投薬にかかる点数のみで数百円ですが、症 状が治まるまで受診する必要があり回数はかかるでしょう。処方された抗生剤は必ず飲むようにしましょう。場合によっては種類を変えて処方されることもあり ます。
3. 抜歯窩に抗生剤の軟膏をいれて外科用パックで覆う
本来血餅があるべきだった抜歯窩にテトラサイクリンパスタ など抗生剤の軟膏を入れ穴の入り口を外科用のサージカルパック(歯科の外科手術などで歯茎の包帯として使われるもの)で塞ぎます。刺激から遮断されるので 痛みは軽減しますが、サージカルパックの違和感が強くはがれてしまうこともあります。経過をみるために3~4日ごとに受診し、症状が落ち着いて抜歯窩が塞 がってくればもう大丈夫でしょう。消毒処置と鎮痛剤と抗生剤を使った薬物療法を併用することが多いので、費用は再診料と薬剤にかかる費用のみで数百円程度 でしょう。
4. 抜歯窩に抗生剤の軟膏をつけたガーゼを詰める
清潔なガーゼにテトラサイクリンパスタなどの抗生剤の軟膏 を塗り、抜歯窩に詰めることで刺激から保護されてかなり痛みが軽減します。一般的には消毒処置および鎮痛剤と抗生剤を使った薬物療法を併用して行います。 痛みなどの症状が軽くなるまで続ける必要があり、ガーゼ交換のために2~5日ごとに受診する必要があります。痛みが軽くなり抜歯窩が歯肉で塞がってくれば もう大丈夫。費用は再診と薬剤にかかる費用のみですので数百円ですむでしょう。
5. 抜歯窩にユージノールセメントを入れる
ユー ジノールセメントという名前は歯科に携わっている人でなければ知らない名前かもしれません。例えば虫歯で穴が開いて歯が痛いとき「痛みを抑えるセメントを 詰めておきますね」と言われたらほとんどの場合ユージノールセメントだと考えられます。ユージノールセメントは鎮静作用を持つセメントで、銀歯などを接着 するためのセメントとは異なります。正式には酸化亜鉛ユージノールセメントというもので、商品名としてはネオダインやハイ-ユージノールセメントなどが知 られています。これをやや柔らかめに練り抜歯窩に流し込むとその鎮痛消炎作用によって痛みが和らぐとされています。その後は症状が治まるまで数日おきに消 毒をしたり場合によっては再度ユージノールセメントを詰める処置を行うために受診します。費用は消毒処置としての再診料と必要があれば投薬が行われますの で数百円程度でしょう。
6. 抜歯窩の再掻把を行う
麻酔をして再び抜歯した穴のなかを掻把(=歯肉を掻き出す処置)して 人為的に傷をつけて出血させ血餅ができるよう促す処置です。抜歯窩再掻把術は保険が適用され、同時に鎮痛剤と抗生剤を処方することがほとんどですので費用 は1000円~1500円程度です。その後は消毒処置や経過観察のために数日おきに受診する必要があります。血餅が新たにできて痛みが治まれば受診の間隔 が開き正常な治癒の流れをたどります。ただし、この処置はあまり積極的には行われていないようです。
7. ジアテルミー(高周波治療器)を使った消炎処置
傷 に高周波を当てることで症状を軽減し治癒を促すというものです。透熱療法や温熱療法と呼ばれ、毛細血管を拡張し鎮静作用(=痛みや炎症を抑える働き)や治 癒の促進、化骨促進(=骨の再生を促す)が期待できるとされています。口内炎や根管治療などにも効果があるそうで、自然治癒力を高める理学療法のひとつと して歯科でもさまざまな症例に応用されています。治療は症状が軽減するまで3~7日に1回程度の間隔で照射を行います。費用は再診料に含まれますので数百 円程度ですが、別途投薬などがある場合にはその費用がかかります。
このようなドライソケットの治療は、その歯科医院でどのような考え方に基づいて行うかで異なります。ドライソケットの治療の根本は自然治癒を待つことに代わりはないため、症状をいかにして和らげるかに重点を置いた治療が多いのが特徴です。
ドライソケットを放置すると、最悪どうなる??
ドライソケットは非常に強い痛みがあるため放置する人は比較的少ないと考えられますが、放置しても通常は自然治癒します。でも稀に放置したために悪化するケースもあるようです。そこで悪化した場合に考えられることをあげてみましょう。
- 骨炎
- 骨壊死
- 蜂窩織炎
悪化すると骨の中に炎症が拡がり、場合によってはさらに炎症の範囲が拡大していきます。こうなると大きな病院で入院や手術などの処置が必要になることがあります。
抜歯後縫合した場合にはドライソケットになるリスクが少なくなりますがゼロとはいえません。口の中には多くの細菌が常に存在していますので、どのような場合でも手術にかかるリスクとして感染による炎症が起こることは考えておくべきでしょう。
ドライソケット放置がどんなに怖いものか解説します
ドライソケットを放置しても一般的には数日~数ヵ月で自然治癒しますが、中には露出した骨面から内部に細菌が侵入して炎症が拡がり、骨炎を起こすことがあります。そこでこれらの病状についてわかりやすく解説していきます。
1. 骨炎
ド ライソケットは骨面がむき出しになっている状態です。そのため細菌が侵入すると骨の中に感染が拡大して骨が炎症を起こしてしまうことがあります。その場合 骨炎から起こる発熱や腫れ、痛みなどがみられます。抜歯による骨炎は長期間(少なくとも1ヵ月以上)抗生剤を服用することが必要です。抗生剤をきちんと使 用しなければ抗生剤が効かない細菌による難治性(=薬が効かずなかなか治らないタイプ)の炎症を起こしてしまうこともありますので適切な診断と処置が必要 です。もし感染の範囲が広く炎症が強い場合はその部分の骨を取り除かなければいけないケースもあります。その場合大掛かりな手術になるため口腔外科などで 入院して手術を受けることになります。
2. 骨壊死
抜歯後の露出した骨面や傷から細菌に感染したり血液が十分に送られな かったために顎の骨の一部が腐ってしまう状態をいいます。歯科ではBP剤(ビスホスフォネート製剤=骨粗しょう症の薬)の副作用として知られていますが、 ドライソケットでもそのリスクは伴います。通常は一部の骨が腐って自然に抜け落ちてしまうことが多いのですが、中には壊死の範囲が広く手術によって切除し なければいけないケースもあります。切除する範囲が大きいと顔の形が変わってしまったり機能に障害が起こることもありますので骨移植などによって取り除い た部分を補う必要があります。
3. 蜂窩織炎
蜂窩織炎は、顎の下辺りまで細菌の感染が波及して広く炎症が起こった状態で す。きちんと抗生剤を服用しなかったり口の中が不潔になっているなどの理由で抜歯後の傷から細菌に感染したために起こります。ちょうど舌の下辺りに痛みが あり物を飲み込むのがつらい、舌をうまく動かせない、舌や顎下部の腫れや痛み、息苦しさ、全身のだるさ、発熱や悪寒などがみられ、さらに悪化すると意識障 害が起こります。診断にはCTやMRIや細菌検査を行います。舌や顎の腫れが酷くなると呼吸がしにくくなるため、まず呼吸ができるよう気道を確保します。 必要があれば切開して膿を出すと共に、点滴や飲み薬で抗生剤を投与します。しかし最悪の場合敗血症を起こすこともあるため非常に重い炎症といわれていま す。
ほとんどの場合きちんと治療することで治癒しますが、自己判断せず腫れが酷い時は口腔外科を受診した方がいいでしょう。
そもそもドライソケットにならないためにはどうすればいい??
ドライソケットは抜歯後に血餅が抜歯窩を覆わなかったために歯槽骨が露出して痛みが出ている状態です。非常に痛みが強いのでできることなら避けたいものですが、ある程度は予防することも可能です。
【自分でできる予防方法】
- 抜歯前は口の中を丁寧にブラッシングして清潔にしておく
- 女性の場合生理中などは避ける
- 抜歯後はできるだけうがいをしない(特に強くうがいするのは絶対に避ける
- 激しい運動やアルコールの摂取は避ける
- 抜歯後は30分程度しっかりガーゼを噛んでおく
- タバコは1週間程度禁煙する(できれば抜歯前から禁煙した方がよい)
- 傷が気になってもいじらない
- 食事の際は硬い物は避ける
- ストローを使うなど吸い込む必要のある動作はしない
- 鼻を強く噛むことや咳、くしゃみはできるだけ控えめにする
- 処方された抗生剤を必ず飲み切る
- 栄養をとり抵抗力をつける
細 かく書きましたが、意外に簡単なことも多いですね。きちんとこれらのことを守っておけば比較的ドライソケットは避けることができます。抜歯が終わり「これ くらい大丈夫」とつい注意されたことを忘れてしまったためにドライソケットになってしまうケースが多いことを忘れないでくださいね。
【歯科医院が行う予防】
- 抜歯の術中可能な限り組織のダメージを少なくする…できるだけ歯や骨を削ったり傷つけるのを避ける
- 麻酔を過剰に使用しない
- 抜歯後可能ならば縫合する
- 適切な投薬を行う
- 患者の全身状態や内服薬などを確実に把握する
- 抜歯後の患者への注意点を徹底する
最新のドライソケット予防方法
【ピエゾサージェリー】
ピ エゾサージェリーとは、三次元超音波振動装置といい歯に超音波を当てることで骨から徐々に浮き上がらせるための機械です。通常の抜歯はヘーベルという器具 を使って歯を脱臼(=骨の穴から抜き出すこと)し場合によっては鉗子というペンチのような器具を使って引っ張り出して抜きます。また親知らずなどの難抜歯 では歯を削って分割したり時には骨を削って抜歯を行うことがあり、どうしても歯を取り巻く組織へのダメージが大きくなります。ピエゾサージェリーは組織へ のダメージが最小限ですむことからドライソケットのリスクが激減するとされています。ただ、この装置を導入している歯科医院はかなり少ないようです。
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【コラプラグ】
コ ラプラグは抜歯後の穴に入れて傷の治りを促す外科処置用のコラーゲンのことをいいます。抜歯後にコラプラグを入れて縫合することで治りが早くなりドライソ ケットのリスクが激減するといわれています。ただしコラプラグには保険が適用されないので5000~10000円程度の費用が別途必要となるようです。コ ラプラグと似たようなものにスポンゼルというゼラチンから作られたものがありよく使われています。
ただし、ゼリー状になったスポンゼル が血液や唾液を吸収し過ぎて取れてしまうことがドライソケットの原因ではないかという説もあるようです。現場では日々、ドライソケットを含めさまざまな術 後トラブルの可能性を少しでも回避できるよう、そして最善の治療が行えるよう努力が続けられています。
ドライソケット 総まとめ
ドライソケットは確立こそ少ないものの誰にでも起こりうる抜歯後のトラブルです。これから抜歯を考えている人も既に抜歯をした人も、是非ドライソケットの知識を持ち予防や対策に活用してください。
それではドライソケットについてまとめてみましょう。
①ドライソケットとは
抜歯をした後の穴(抜歯窩)が何らかの原因によって血餅(血の塊)で保護されず、抜歯後の歯槽骨(歯を取り巻いている骨)が剥き出しになり激しい痛みが起こった状態。
※ドライソケットは女性に多いのか
生 理周期によってホルモンの分泌が変化するためそれに合わせて体調も変動するため、時期によっては傷の治りが遅くドライソケットのリスクが高まります。また 閉経後や経口避妊薬を服用している女性も、ホルモンの影響で骨の再生が悪くなりドライソケットのリスクが高くなるといわれています。
②ドライソケットになる原因
最 大の原因は抜歯窩にあるべき血餅ができなかった、あるいは取れてしまったことです。血餅は患者さん自身の不注意や体調などによって左右されますので、抜歯 後は注意を怠らないようにすることが大切です。また、タバコなどの生活習慣や口の中が不潔な状態にあることなども影響します。抜歯後は治りが少しでもよく なるよう、適切な生活を心掛けるようにしましょう。
③ドライソケットの代表的な症状
ドライソケットの最大の症状といえ ば、あの激烈な痛みでしょう。抜歯後数日経っているにもかかわらず痛みが酷くなり薬もあまり効果なし、あらゆる刺激が痛い、口が開きにくい、などの症状が みられたらドライソケットの可能性があります。また、下の親知らずを抜歯した場合にはドライソケットの確立が高くなるという報告もあります。
④自宅でできるドライソケットの治療法
率 直に言うと自宅でできる治療法はほとんどありません。痛み止めを飲む、ひたすら安静にする、抵抗力をつけるなどで自然治癒力を高めることを目指します。 ネットなどの情報でガーゼに抗生剤の軟膏を付けて入れるという記載を見かけましたが、絶対に自分で処置をするのはやめましょう。
⑤歯医者で行うドライソケットの治療法
ド ライソケットでは、消毒・鎮痛剤・抗生剤は3点セットで行います。基本的にはドライソケットは自然治癒を待つことになり、歯科医院では痛みを和らげること を目的として処置を行うのが一般的です。大きく分けると抗生剤を使って抜歯窩を一時的に塞ぐ方法と再度出血させて新しく血餅を作らせる方法の2つといえま す。また高周波の働きを活用して治癒を促す方法もあるようです。
⑥ドライソケットを放置するとどうなるか
通常は時間の経過と共に自然治癒しますが、中には感染がさらに広がり骨炎や骨壊死、蜂窩織炎など重い炎症を起こすことがあります。
⑦ドライソケットの予防法
自 分でできる予防法としては、うがいをしない・運動や飲酒をしないなどの抜歯後の注意をきちんと守ることや、ガーゼを30分噛み圧迫する、飲食や日常生活で 血餅が取れないよう注意することが大切です。また歯科医院としては、組織の損傷を最小限にすること可能ならば抜歯後は縫合すること、確実な投薬、患者への 説明の徹底、体調の把握などに勤めます。
最新の予防法
ピエゾサージェリーという機器を用いればこれまで大変だった抜歯が 超音波の力で非常に楽に、そして組織へのダメージが最小限に行うことができます。また、コラプラグというコラーゲンを抜歯窩に入れることにより傷の治りを 促す効果も期待できます。ただしコラプラグは保険が適用されません。
ドライソケットの痛みはとてもひどい上になかなか治まらないため大 きな不安をもつものです。でもたいていの場合、時間はかかりますが自然に治っていきます。しばらくはつらい状態が続きますが、少しでも痛みを軽減して日常 生活の負担を少なくするために、きちんと歯科医院を受診して適切な処置を受けましょう。
また抜歯を控えている人や抜歯直後の人は、抜歯後にこのようなトラブルが起こらないようきちんと準備をして臨むことをおすすめします。正しい知識を持ち少しでも早い回復を目指しましょう。