40代以降の更年期の女性に突然謎の舌の痛みが起こることがあります。見た目は何も異常がないのに、日常生活に支障が出るほどの痛みが出ることも珍しくなく、生活の質を大きく下げてしまうほどであるといいます。この厄介な舌の症状を起こすものを舌痛症とよびますが、今回はその実態について詳しく解説していきます。
そもそも舌痛症とは
■舌痛症とはそもそも何か?
舌痛症とは、見た目に何の異常もないのに舌に原因不明の痛みが続いている状態をいいます。
■舌痛症の代表的な症状
舌の先端や縁の部分に次のような症状が出ます。
- やけるような「ヒリヒリ」「ピリピリ」「カーッ」とした痛み
- さすような「ズキズキ」「チクチク」した痛み
- しびれ
このような「痛み」が唯一の症状として現れ、明らかに炎症や潰瘍などがある場合で、それが痛みの原因になっている場合は舌痛症とは診断されません。
■舌痛症の痛みの特徴
- 痛みは朝から晩まで続き、特に夕方から夜に症状が悪化する
- 痛みは一般的に舌の両側に現れる
- 痛む場所が一定せず、あちこち変動する
- 食べている時、話している時、何かに夢中になっている時は症状がない
■どんな人が舌痛症になるのか?
現在の時点で次のような人がかかりやすいことが分かっています。
- 40代以上の更年期の女性(閉経後の有病率は12-18%)
- 精神的ストレスを抱えた人
- 神経質で几帳面な人
- ガンなどの病気に対する恐怖症のある人
舌痛症の原因はわかっていない?原因不明の舌の痛み
■舌痛症の原因
舌の痛みを引き起こす原因としては次のようなものが考えられます。
- ビタミン、亜鉛、鉄分など微量元素の不足
- 口の中に舌を刺激するものがある(尖ったり欠けている歯、入れ歯、歯石など)
- 口腔カンジダ症
- 唾液が少ない(ドライマウス)
- 金属アレルギー
- 糖尿病
舌痛症の原因はまだはっきり分かっていません。舌の痛みに対して歯科医師は痛みを引き起こしうる上の原因をひとつひとつ取り除いて行って治療を試みますが、どの方法でも治らない場合に「舌痛症」という診断が下ります。
■心の問題が関係している?更年期障害?
舌痛症の患者さんは多くの場合、不安やうつを伴っています。このような理由で舌痛症は心理的なものと大きく関わっているとも言われ、大きなストレスを受けた後に舌痛症を発症することが多いのも分かっています。例えば、家族との死別、夫のリストラや定年、子供が家を出る、などです。
またストレスを溜めやすい真面目で几帳面な人や、ガンなどの病気にたいしてすぐに恐怖を抱く人も舌痛症にかかりやすい傾向があると言われています。心理的なことから来ていると診断され「気のせいですよ」と医師から言われ、適切な治療を受けずに悩んでいる人も多いようです。
更年期生涯とも言われるものの、原因はわかっていないのが現状
更年期障害との関連も疑われており、性ホルモンに関したなんらかのホルモン異常が起こっているとの説もありますが、詳細はよくわかっておらず、最近の研究では、心理的な要因やホルモン異常の他にもさらに複雑にいろいろな要因が絡んでいると言われています。
近年では痛みを伝達し、それを知覚する神経回路に障害が起こっている、いわゆる「神経痛」のような状態を起こしているためだという考え方も有力になりつつあります。
舌痛症は悪い病気?癌の前触れ?
■悪性疾患と舌の痛みについての関係性
舌の痛みで悩んでいる人の多くが、ガンなどの悪い病気ではないか?と心配していることが多いようです。ですが、ガンが痛みだけを症状として舌に現れる、ということはほとんどなく、通常はデキモノや潰瘍のような病変を伴って現れます。
ガンではないか?と心配すればするほど、症状がひどくなりがちです。舌痛症と診断を受けた時点で悪性の病気ではない、ということですし、舌痛症がいずれガンに発展する「前触れ」になることもありませんので安心してください。
舌痛症治療に漢方が効果的!?
■舌痛症は何科で診てもらえばいい?
舌痛症でまず訪れることの多いのが歯科医院でしょう。しかし、口腔外科を扱っていない一般歯科などでは、舌痛症に対する治療を行っていないことも多く、舌の痛みを訴えたところで「気のせいです」とか「心配いりません」などと流されてしまうこともあるようです。
舌痛症は見た目に異常がないため他人に症状の辛さを理解してもらいにくく、解決の糸口が見つからないため、患者さんのなかにはじっと我慢して辛い思いをしている人も多いようです。ですが、それがさらなる悪化を引き起こす原因となるため、しっかりと治療を受けられる医療機関を探すことが大事です。
まずは歯医者さんで診てもらいましょう
まずはかかりつけの歯科医院に相談してみましょう。口腔外科の歯科医師であれば、舌痛症の治療を行っているかもしれません。もしそうでない場合には、舌痛症を行っている医療機関に紹介状を書いてもらいましょう。例えば、大学病院の口腔外科、口腔内科や痛みを取る専門であるペインクリニックなどがそれに当たります。また、まだ多くはないですが、心療歯科と呼ばれる、舌痛症など、心因性などの口の中の病気を専門に扱う診療科もあります。
■舌痛症の場合、どんな治療方法がある?
舌痛症ははっきりとした原因が分かっておらず、原因療法は存在しません。ですので、治療としては症状を軽くするという対症療法が行われています。治療に関しては心理的な問題が原因になって痛みを起こしている場合が多いため、ストレスや不安を取り除くことが効果的である場合が多いようです。
具体的には 薬物治療や認知行動療法(心理療法)やカウンセリングを心療内科などの専門医師と連携して行うこととなります。また舌痛症の3%ほどのケースでは自然治癒すると言われています。
■どんな薬が処方されるの?
薬物療法として出される薬には次のようなものがあります。
1.抗うつ剤
慢性の痛みを軽くする効果を持っていることから、うつでなくても出されることがあります。1ヶ月間の投与で70%の患者さんに有効であると言われています。
2.抗不安薬
患者さんが不眠や不安を伴っている場合に出されます。
3.漢方薬
ある種の漢方薬が効果的な場合があります。
4.抗胃潰瘍剤
抗胃潰瘍剤のなかには舌の血流を改善することにより、舌痛症に効果的なものがあります。
■漢方が有効?
抗うつ剤などの薬に抵抗がある人に対しては漢方薬も有効なことがあります。また、現在漢方薬の効果がますます認められつつあり、漢方薬を積極的に用いる医師、歯科医師が増えてきています。漢方薬は長期にわたって服用して体質を変えていくことが目的ですので、飲み始めたら休まず飲み続けることが非常に重要となります。効能としては、心理的不安などを取り除くもの、唾液の分泌を促すものが選ばれます。
舌痛症に効果があると言われている漢方薬は20種類ほどあります。舌の状態や症状に合った漢方薬を選んで処方されますが、短期間では効果が現れませんので数ヶ月単位、なかには年単位で服用する場合もあります。
<舌痛症に出される主な漢方薬>
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
- 加味逍遙散(かみしょうようさん)
- 桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)
- 五苓散(ごれいさん)
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
- 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
- 柴朴湯(さいぼくとう)
- 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
- 小柴胡湯(しょうさいことう)
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
- 麦門冬湯(ばくもんどうとう)
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼうとう)
- 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
- 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
- 六君子湯(りっくんしとう)
- 立効散(りっこうさん)
- 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
- 六味丸(ろくみがん)
舌痛症まとめ
■舌痛症とは
- 見た目に異常がないのに舌に原因不明の痛みが続いている状態
- ヒリヒリ、カーッとする灼熱痛、チクチク、ズキズキ刺すような痛み、しびれが出る
- 40代以上の更年期の女性に多い
- 精神的ストレスや不安などで起こりやすく、神経質で几帳面、ガン恐怖症の人に多い
■舌痛症の痛みの特徴
- 痛みは朝から晩まで続き、特に夕方から夜に症状が悪化する
- 痛みは一般的に舌の両側に現れる
- 痛む場所があちこち変動する
- 食べている時、話している時、何かに夢中になっている時は症状がない
■舌痛症の原因
- ビタミン、亜鉛、鉄分など微量元素の不足
- 尖ったり欠けている歯、入れ歯、歯石などの刺激
- 口腔カンジダ症
- 唾液が少ない(ドライマウス)
- 金属アレルギー
- 糖尿病
舌痛症の原因はまだはっきり分かっていない。 原因が上のいずれにも当てはまらない場合、「舌痛症」と診断。
■舌痛症との関連が疑われているもの
心理的な要因や更年期障害なども疑われているが、まだ詳細ははっきりしていない。神経痛のようなメカニズムで起こっているという説も有力。
■悪性疾患と舌の痛みについての関係性
- 舌痛症と診断を受けた時点で悪性の病気ではない
- 舌痛症がいずれガンの前触れになることもない
■舌痛症の診療科
- 歯科(できれば口腔外科の医師がいるところ)
- 大学病院の口腔外科、口腔内科
- ペインクリニック
- 心療歯科
など
■舌痛症の治療方法
原因療法はなく、対症療法
- 薬物療法
- 認知行動療法(心理療法)
- カウンセリング
- 自然治癒(全体の3%)
■舌痛症で出される薬
- 抗うつ剤
- 抗不安薬
- 漢方薬
- 抗胃潰瘍剤
■漢方が有効?
- 長期にわたり漢方薬を服用することで体質を変えていく
- 主に心理的な不安などを取り除くもの、唾液の分泌を促す効果のあるもの(20種類ほど)
まず、舌がヒリヒリするな、違和感があるな、痛いなと感じたら無理せずにお医者さんに診てもらうようにしてください。アナタの健康を願っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。