全身疾患が原因でインプラントができない可能性のある方はこんな人
①糖尿病
歯科に限らず医療関係においては、糖尿病の人の治療には慎重にならざるを得ません。なぜならば、糖尿病の人は免疫機能がうまく働くことができず感染症を引き起こしやすいからなのです。
糖尿病で血糖値の高い人は、怪我をするとなかなか治りません。インプラントでは歯茎を少なからず切って骨を露出するため人工的に傷を作ることになりますから、傷の治りが悪くいつまでもぐずぐずとしてさらには抵抗力も弱い糖尿病の人ではたちまち細菌に侵されてしまいます。
糖尿病の人がインプラントを希望する場合にまず大切なことは感染対策です。通常は手術後から抗生剤を服用することも多いのですが、前投薬といって手術前からあらかじめ抗生剤を服用しておくことでかなり感染症のリスク減らすことができます。
また、事前に内科の主治医の先生とも連携して薬やインシュリン注射などで血糖のコントロールをしっかりしておくことも大切です。食事や生活習慣に気を付け、日ごろから感染のリスクを減らすためのブラッシングやメンテナンスをしっかりしておきましょう。
②心臓疾患
インプラント手術では出血を伴います。健康な人ならこの出血は数分から数十分で止まりますが、中には出血が止まりにくい人もいます。その代表的なケースとして挙げられるのが心臓疾患のある患者さんです。
心筋梗塞や狭心症、心臓弁膜症、ペースメーカーを入れている人のような心臓疾患を持っている、または過去にしたことのある患者さんは、血液の流れをよくして血栓などが起こらないようにする薬を服用しています。
いわゆる「血液サラサラ」と呼ばれている薬でワーファリンなどがよく知られています。ワーファリンを服用している人は、怪我をすると出血がなかなか止まりません。そのためインプラントに限らず抜歯などの外科手術は避けるのが一般的です。
インプラントなどの外科治療を希望する場合、最低でも1週間程度、薬によっては半年程度服用を中止して薬の効果がなくなってから行います。
もちろんこれらの判断は、内科の主治医と歯科の主治医が連携をとり安全性を確認したうえで行うのが鉄則です。勝手に薬を中断してはいけません。
また、最近ではきちんとした止血処置をすれば薬をやめなくても手術ができるという説もありますが、いずれにしても安全を確認するのが大前提です。
③血液疾患
インプラント手術で注意を要する血液疾患として遺伝が主な要因である血友病や、血液の細胞が癌化してしまう急性骨髄性白血病という病気があります。どちらも血液が固まりにくい病気です。
血友病の人は、傷によってできた血管の傷を修復する機能がうまく働かないために出血が止まりにくく、止血するには長い時間がかかります。
急性骨髄性白血病では、本来赤血球や白血球などの血液になるはずの細胞が癌化してしまい出血しやすく止まりにくいという特徴があるだけでなく、白血球が少なくなり細菌に感染しやすくなります。
インプラントでは人工的に傷を作ることになりますので、このような血液疾患のある人はたとえ最小限の切開に留めたとしても出血がなかなか止まらない可能性があるので手術は避けます。
また病気の自覚がなくても、普段から怪我をした時に血が止まりにくいと感じている人もいるでしょう。そういう方はなんらかの血液疾患が隠れていることもありますので、安易に大丈夫と決めつけずそのことを歯科医師に必ず伝えると共に内科などで検査を受けて確認することが大切です。
血液疾患がある場合、歯科の治療を行う前に主となる血液の病気の治療を行います。またどうしても手術を受けたいという場合には、入院施設があり輸血などの設備が整った総合病院などの歯科口腔外科で受けるのが賢明です。
④骨粗しょう症
近頃骨粗しょう症という言葉をよく耳にします。栄養過多なこの時代ですがこれは骨が脆くなって骨折のリスクが高くなってしまう病気です。
長年の食習慣や生活習慣などが原因とされていますが、高齢になってからの骨折は寝たきりや歩行困難などの原因になり介護が必要になる可能性もあるのです。
特に閉経を迎えた女性は骨粗しょう症が進むといわれています。そこで、内科や産婦人科などで骨粗しょう症の薬を処方される人が増えてきました。
この薬はビスフォスフォネート剤というもので骨が脆くなるのを防いでくれる効果があり、骨粗しょう症だけでなく癌などの治療にも使われています。
しかしこの薬は時に副作用があり、特に歯科においてはインプラントや抜歯などの外科処置をした後の傷が治らず骨が壊死してしまうことがわかりました。もちろん必ず壊死が起こるわけではありませんが、大体10人に1人くらいの割合で起こると報告されています。
この薬は飲み薬と注射の2つの方法がありますが、万全を期すために手術の前の一定期間薬を中断することでかなりの確率で壊死を避けることができます。
歯科だから関係ないと自己判断せず、必ず飲んでいることを歯科医師に伝えましょう。インプラントや抜歯などの外科処置を行う場合内科の主治医と歯科医師で連携を取り、現在の体の状態や手術の可否、薬の情報などを共有したうえで判断することが大切です。
⑤高血圧
現在の日本では、高血圧の人がとても増えています。降圧剤という血圧を下げる薬をきちんと飲んでコントロールしている人もたくさんいらっしゃいますが、実際には適切な検査を受けていない隠れ高血圧の人もかなりの数に上ると考えられます。
およそ140/90mmHg程度なら問題ないとされていますが、実際には緊張したり興奮すると血圧はすぐに20~30mmHgくらいは上がってしまいます。
「切る」「削る」「穴を開ける」「縫う」などの言葉を聞いただけで人は緊張したり不安を感じたりするものですから、実際の手術となると患者さんが緊張するのは当然ですね。
そうすると血圧が上昇します。急な血圧の上昇は心臓に負担をかけるばかりか脳出血などのリスクも上がります。また、高血圧の人は心臓から血液が正常な人よりも強い圧力で押し出されているので出血も止まりにくく術後の止血の状態も注意が必要です。
高血圧の人がインプラントを受ける場合、一般的に使われている麻酔薬は血圧を上げる作用がありますのでそういった成分を含まない麻酔薬を使います。
設備の整った施設であれば静脈内鎮静法といって麻酔を点滴のようにして血管に入れ眠った状態で行うこともあります。もちろん内科などで血圧をコントロールし安定していることが大前提です。
前は高かったけれど今は安定している、という人も安心せず一度内科で検査を受けてから可能かどうかの判断をするようにします。
⑥肝疾患
肝臓は人が生きていくための中心的な役割をしています。外から取り込んだ栄養の分解や解毒作用など、健康な毎日のための基本となる活動をしていますが、眠れる臓器と呼ばれるほど病気の自覚症状がなく気づいた時には進行していたというケースも見られます。
そして肝臓が悪くなると怪我などで出血したときに血が止まりにくくなることがあります。ですから、インプラントのような外科手術を行うと、なかなか出血が止まらない可能性があります。
また、手術では抗生剤や鎮痛剤などの薬を飲んでもらうことになりますが、肝臓の働きが衰えているとこのような薬がきちんと体に取り込まれず効果が発揮できなくて細菌に感染してしまう恐れもあります。手術のストレスが肝臓の機能に影響を与えることもあるようです。
そのため、インプラントを受けたいのであれば、肝臓の機能は安定しているか、コントロールできているかなど内科の主治医の診断を仰ぎましょう。リスクを少しでも少なくするために十分な検査や治療を先に行うことが大切です。
⑦心臓病
心臓病になると、運動や日常生活だけでなく手術なども制限されることがあります。
主な心臓病の症状には「階段を上ると息があがる」「脚がむくんでいる」「背中に枕などをあてがって寝ないと息苦しい」などがありますので、このような症状を日常的に感じている人は、インプラント手術を受ける前に必ず内科で心臓の検査を受けるようにします。
また、狭心症や心筋梗塞のような心臓の病気になったことのある人は、血液が詰まらないようサラサラにする薬を飲んでいる人が多いので注意が必要です。
この血液サラサラの薬を飲んでいる人は出血が止まりにくくなることがわかっていますので術後に大出血を起こす可能性があります。これ以外にペースメーカーを入れていたり人工弁置換術を受けたなどのある人は、必ず事前に歯科医師にその旨を伝えましょう。
内科の主治医と歯科医師で病状や薬の内容など情報を共有してインプラントを行うかどうかの判断をする必要があるからです。
血液サラサラの薬を中断するなどの条件で内科の主治医の許可が下りた場合、インプラントを受けられることもあります。
⑧腎疾患
腎臓は、体のバランスを保ち老廃物を体外に排出するなど体の調子を整え、免疫力を維持する役目をしています。腎臓の病気はさまざまで、食事制限で病状が軽減する人から人工透析を受けなければいけない人などその程度も幅広い臓器です。
ですから腎臓病だからとインプラントができないというわけではありませんが注意が必要です。腎臓病の人は、免疫機能がうまく働かないために傷の治りが悪いことがわかっています。
つまりインプラントをした際に、顎の骨にインプラントがきちんと定着しないことがあるのです。また、人工透析を受けている人は、手術の際に処方する薬の使用にも細心の注意が必要になります。
インプラントをする際には感染を予防し、痛みを抑えるために抗生剤や鎮痛剤などを使うことがほとんどですが、透析をしている人や腎臓の機能が著しく落ちている人には使えないことがあるのです。
そうすると、手術痕の傷から感染が起こり最悪の場合インプラントが抜け落ちてしまうこともあり得ます。また、透析を受けている人は血液の循環をよくする薬を服用しているために、出血が止まりにくい状態にあります。
腎臓病を患っている人がインプラントを希望する場合は、入院施設の整った総合病院などで全身状態を確認しながら手術を行うのが賢明です。食事療法や治療によって腎臓の数値が安定していることを確認したうえで、インプラントが可能かどうかを判断します。
⑨癌治療中
癌は日本人の3大死亡原因のひとつと言われています。癌が見つかると外科的な切除手術や抗癌剤、放射線などを使った治療を行うことも少なくありません。
抗癌剤や放射線治療は副作用の強い治療としても知られています。例えば口の中では口内炎もそのひとつです。これは癌の治療によって正常な細胞にもダメージを与え炎症が起こってしまった状態です。
抵抗力も落ちているので、インプラントをしても治りが悪く感染しやすい状態にあります。ちょっとした傷が口内炎になってしまいますから、インプラントの手術痕の傷がどうなるかは容易に想像できますよね。
また放射線治療をしていると、麻酔が原因となって骨髄炎を起こしてしまうことがあります。唾液の分泌も悪くなるので虫歯や歯周病になるリスクも格段に上がります。
つまり細菌が口の中に増えてしまうので、インプラント部分にも細菌がたくさん付着して炎症を起こす可能性が高くなるのです。最悪の場合、インプラントが抜け落ちてしまうことも考えられます。
ただし、癌の治療を受けてから時間が経っている人は、内科の主治医と相談の上でインプラントができることもあります。癌の治療を現在行っている人は、インプラントは避けた方がいいでしょう。
全身疾患とインプラント総まとめ
- 糖尿病の人は、感染しやすく治りも悪いため血糖コントロールをしっかり行うことが必要。
- 心臓疾患のある人は出血が止まりにくいが主治医の判断で薬を中断しても問題なければ可能。
- 血液疾患がある人は入院や輸血などの設備が整った総合病院などの歯科口腔外科に相談する。
- 骨粗しょう症の薬は顎の骨が壊死する可能性があるため内科医の判断で一定期間中止して手術を受ける。
- 高血圧の人は血圧コントロールを確実に行い安定していることを確認して手術を受ける。
- 肝疾患の人は、出血がとまりにくく抗生剤も効きにくいので肝機能が安定し主治医の許可があれば手術可能。
- 心臓病の人の薬は出血がとまりにくくなるため主治医の許可で薬の服用を中断すれば手術可能。
- 腎疾患の人は傷の治りも悪く術前後に薬を使えないこともあるので総合病院で全身管理の下なら手術可能。
- 癌の治療を受けている人は抵抗力が低下して治りがわるく感染しやすいので癌治療を完了してから相談する。
インプラントはきちんと定着すれば自分の歯のように噛むことができるとても優れた技術です。でも、すべての人がその恩恵をうけることができるわけではありません。特に全身的な病気を抱えている人は、インプラントを受けることができないことがあります。
出来るできないを確かめる上でもインプラントを行う上でしっかりと事前検査を行うようにしてくださいね!